腎膿瘍(読み)じんのうよう(その他表記)Renal abscess

六訂版 家庭医学大全科 「腎膿瘍」の解説

腎膿瘍
じんのうよう
Renal abscess
(腎臓と尿路の病気)

どんな病気か

 腎膿瘍は、腎実質内に形成される膿瘍(うみの塊)で、腎皮質(じんひしつ)膿瘍と、腎髄質(じんずいしつ)膿瘍とに大きく分類されます。

 一方、腎筋膜(Gerota筋膜)内に、うみが貯留するものを腎周囲膿瘍といいます。

原因は何か

 腎皮質膿瘍は、皮膚や口腔内など腎臓以外の化膿巣からの血行性感染によって生じます。その背景として、静脈内への薬物乱用、血液透析糖尿病などがあります。起因菌としては黄色ブドウ球菌が多く、膿瘍は一般に片側性です。

 腎髄質膿瘍は、上行性(じょうこうせい)尿路感染が腎実質へ波及することで生じます。尿路結石膀胱尿管逆流現象などの尿路系の基礎疾患をもつ患者さんや、糖尿病の患者さんに起こりやすい病気です。

症状の現れ方

 発熱、悪寒、背部痛もしくは側腹部痛、体重減少、倦怠感がみられます。腎部には圧痛(押すと痛い)が認められ、側腹部に腫瘤(しゅりゅう)が触知される場合もあります。

 腎髄質膿瘍では、頻尿(ひんにょう)などの尿路感染症状が現れます。

検査と診断

 末梢血液検査では、白血球増多やCRP上昇などの炎症反応が認められます。

 腎髄質膿瘍では、膿瘍が尿路と交通しているので膿尿(のうにょう)を認め、尿培養検査で起因菌を特定できることがあります。

 腎皮質膿瘍では、尿所見は正常ですが、血液培養検査で起因菌を特定できることがあります。

 腎周囲膿瘍(じんしゅういのうよう)では腹部単純X線検査で腸腰筋陰影の消失、排泄性尿路造影では、腎実質内の占拠性病変として認められ、超音波やCT検査でその性状や病変の広がりを把握します。

 しかし、画像診断で腎腫瘍、化膿性膿胞(のうほう)、腎周囲膿瘍との区別がつかない場合には、超音波またはCT下での経皮的吸引針生検(組織をとって調べる)を行います。

治療の方法

 治療の基本は抗生剤の投与になります。

 尿培養、血液培養、膿瘍培養の結果から、起因菌に有効な抗生剤を選択します。膿瘍が直径3㎝以下なら保存的治療が期待でき、5㎝を超えると一般的には超音波またはCTガイド下に穿刺ドレナージを行います。無機能腎(むきのうじん)であったり感染が激しい場合には、患側腎摘出術などの外科的処置を検討します。

病気に気づいたらどうする

 泌尿器科を受診し、専門医による鑑別診断を受けるとともに、今後の治療法について相談してください。

来栖 厚

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「腎膿瘍」の解説

じんのうよう【腎膿瘍 Renal Abscess】

[どんな病気か]
 腎臓(じんぞう)の組織(腎実質(じんじっしつ))でも、とくに外側の皮質(ひしつ)あたりに、膿(うみ)のかたまりができた病気です。
 感染をおこす細菌は、からだのほかの部分にある感染巣から血行にのって運ばれてきます。原因菌の多くは、グラム陽性球菌(ようせいきゅうきん)です。
 小さな膿のかたまり(膿瘍(のうよう))が多数できたり、それが融合する状態になると、腎実質のほとんどが膿で占められることもあります。
 これが腎臓をおおっている膜(まく)を破って、外の組織にも感染すると、腎周囲膿瘍(じんしゅういのうよう)(「腎周囲膿瘍」)になります。
[症状]
 寒けや震えをともなう高熱が出ます。また、腎臓部(わき腹)に痛みがあり、とくにたたくと痛みが強くなります。
[検査と診断]
 圧痛をともなう腫大(しゅだい)した腎臓をわき腹に触れます。
 感染のもとになった細菌は、扁桃腺(へんとうせん)や皮膚の化膿性疾患(かのうせいしっかん)からくることが多いので、そのような感染巣がないかを調べます。
 血液検査では、白血球(はっけっきゅう)増加や血液沈降速度(血沈(けっちん))の亢進(こうしん)など、炎症があることを示す結果が得られます。
 静脈性腎盂撮影(じょうみゃくせいじんうさつえい)、CTスキャン、超音波検査などの画像検査で、膿瘍のある部位、大きさを調べます。
[治療]
 膿瘍が小さければ、強力な抗菌薬を使った化学療法で治癒(ちゆ)させることができます。症状が強く、また膿瘍が大きくなっている場合は、切開(せっかい)して膿をとることが必要です。
 敗血症(はいけつしょう)(「敗血症」)のおそれがあれば、腎臓を摘出することもあります。

出典 小学館家庭医学館について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「腎膿瘍」の意味・わかりやすい解説

腎膿瘍
じんのうよう

腎臓の化膿性疾患で、皮膚や扁桃(へんとう)などの化膿巣から細菌が血行性に腎臓に運ばれておこる。原因菌としては黄色ブドウ球菌が多い。腎皮質に多数の小膿瘍を形成する場合が多いが、ときに限局性に孤立した大きい膿瘍をつくることもある。また、いくつかの小膿瘍が集合して皮膚のカルブンケルKarbunkel(癰(よう))と同様の病像を呈するものがあり、腎カルブンケルとよぶ。症状は悪寒戦慄(せんりつ)を伴う高熱、腎部の疼痛(とうつう)などであるが、膿瘍が腎盂(じんう)に破れることはまれであり、尿の変化は少ない。腎臓のX線撮影、画像診断などの所見を総合して診断が下される。強力な化学療法を行うが、これが効を奏しない場合や腎周囲に膿瘍が破れた場合には、手術が必要となる。

[河田幸道]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「腎膿瘍」の意味・わかりやすい解説

腎膿瘍
じんのうよう
renal abscess

腎臓に多発性の膿瘍が形成された状態をいう。外傷,尿うっ滞,血行障害などで腎臓の抵抗力が減退しているときや,細菌の毒力が強力なときに,血行性感染によって起る。膿瘍は,腎皮質に多発するもの (粟粒性腎皮質膿瘍) が多いが,髄質とか腎乳頭に限局することもある。小膿瘍が集合し,周囲に炎症性結合組織の増殖を伴う腎カルブンケルもある。これらの膿瘍の多くは,自潰して腎周囲膿瘍を形成する。症状は次第に腰部に限局する腹痛と高熱,悪寒が中心。治療には強力な化学療法を行うが,無効ならば外科的に切開する。

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