ロシアの資源ナショナリズム(読み)ろしあのしげんなしょなりずむ

知恵蔵 の解説

ロシアの資源ナショナリズム

ロシアは、戦略的に重要な資源を国家が管理することによって、国力を強化しようとしている。また、資源大国としての自信を背景に、欧米とは異なる独自の道を歩み始めた。その結果、欧米諸国との間で「冷たい平和」といわれる関係も生まれている。ソ連邦崩壊後の1990年代は、経済の破綻(はたん)により発展途上国並みの経済状況に陥り、かつての超大国としての誇りは深く傷ついた。この頃ロシアは、民主主義と市場経済という欧米と同じ制度や価値観を共有する国になることを目指し、西側諸国もそのようなロシアの姿勢を支持し、民主化と市場化を支援する姿勢を示した。しかし、その後石油天然ガスの国際価格高騰による経済の好転によって、ロシアは再び大国としての自信を強め、欧米に対抗するナショナリズムの雰囲気も強まっている。ロシア国内では、国際的エネルギー価格の高値に支えられて、プーチン政権が成立した2000年ごろから経済が好転し、一度失った自信を再び回復した。また、対外的には、経済力を背景に、強硬姿勢も強まり、ウクライナグルジアモルドバなど新欧米路線をとる独立国家共同体(CIS)諸国に対する圧力を強めている。この資源力を背景に、ロシアが主宰した06年7月のG8サミットでは、「エネルギー安全保障」を中心テーマに据え、大国としてのロシアの力を誇示しようとした。ただ、腐敗汚職はより深刻となり、ユコス事件など民主主義に反する権威主義強権主義傾向に対し、西側諸国からのロシア批判も強まった。06年5月、米国のチェイニー副大統領は訪問したリトアニアでロシアでは、民主化が後退し、「エネルギー供給を近隣諸国への脅迫材料に使っている」と批判して、米ロ関係が冷え込んだ。

(袴田茂樹 青山学院大学教授 / 2008年)

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