ドイツ語で〈渡り鳥〉の意味。渡り鳥のように自由にあちこちを遍歴し,徒歩旅行によって身体をきたえ,素朴で簡素な生活を通じて独立の精神を養おうという趣旨の青年運動。この運動の発端となったのは,1895年にドイツのシュテーグリッツ高等学校の生徒たちが始めた野外活動である。彼らは都市化が進む生活様式の中で見失われがちな人間的な価値を求めて大自然の中へ分け入った。自然と深く交わることから自己の存在理由を見いだし,民族や国家について思いをめぐらすことを求めたのである。1897年には,運動のリーダーであったフィッシャーKarl Fischerを中心に〈ワンダーフォーゲル〉の名を冠した推進組織がベルリンに設立され,しだいにドイツ全土へ活動が浸透していった。その主張は,徒歩旅行を行うことを通じて,自然,郷土,祖国,民族を愛し,意志強固で品行方正な青年を育てるというもので,野営生活の技術を学ぶことをはじめ,山登りの方法や民族舞踊に親しむ活動などもとり入れられていた。19世紀の末から20世紀初頭にかけて,ドイツ帝国主義の興隆を背景に,青年たちにドイツの国民精神を意識させようとする運動が起こったが,ワンダーフォーゲル運動はその代表的なものである。この運動と呼応しあうかたちで同時期に,青少年に安価な宿泊施設を提供して青少年旅行を活発にしようとする青少年宿泊活動も提起されている。R.シルマンによって唱えられたこの運動は,やがてユース・ホステル運動として全世界に広がる。いずれも旅のもつ教育的意義に注目した青少年運動であった。
日本にも第2次大戦前から,これらの運動に影響された〈山野跋渉(ばつしよう)活動〉が青少年を鍛錬する活動として行われてきた。しかし,ワンダーフォーゲルという用語が定着するのは,戦後,とくに高度成長期からである。大学生のクラブ活動の中で,高山や雪山や岩登りをめざす山岳部とは異なる,比較的低山の,しかし長期にわたる山行を主眼としたワンダーフォーゲル(ワンゲル)部が数多く作られた。しかし,旅行による自己教育という面は,必ずしも強く意識されているとはいえず,それはユース・ホステル運動によって受け継がれているといえる。
執筆者:薗田 碩哉
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山野を、渡り鳥のように徒歩旅行する活動のこと(ワンダーフォーゲルはドイツ語で渡り鳥の意)。1896年、ドイツ・ベルリン郊外の高校生カール・フィッシャーにより始められ、1901年、同じくドイツのウォルフ・マイネンWolf Meyenenという少年によってワンダーフォーゲルと名づけられた。初めは、社会の矛盾に抵抗して、自然の中に新しい文化と生活を求める青少年の旅行運動であった。都会生活を離れ、大自然の中で自主的な生活を行い、理想主義に燃えて語り合うというワンダリングは、1909年リヒアルト・シルマンによって始められたユースホステル活動とも結んで、たちまちヨーロッパから世界各国に広まり、ドイツじゅうにギターとリュックサックを担いだワンダラーがみられるようになった。第二次世界大戦中はナチスのヒトラー・ユーゲントに統合されたが、戦後復活し、本来の活動が行われるようになった。日本では戦後、大学生を中心にクラブが結成され、しだいに社会人にも普及していった。日本の場合、山地が多いので、その活動は登山と混同されやすいが、自然の中で生活し、語り合うことが主旨で、山もその対象の一部であり、海岸、平野のワンダリングも多い。いわゆるスポーツ登山とは目的意識を異にしている。この点、イギリスで行われたハイキングと同義的に用いられている。しかし、厳格なトレーニングを要求するスポーツ登山と異なり、同好の士の集まりなので安易に流れやすいが、行動面でたいせつなことは、気象、地図などの基礎知識や、歩き方などの技術を十分に習得し、無理のない計画をたて、用具の準備をして慎重な行動をすることが必要である。
[徳久球雄]
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