翻訳|geology
鉱物、岩石、地層、化石の研究を通じて、地球の構成物質の性質と分布、そのでき方を明らかにし、地球と生物の歴史、地球を舞台とする物理・化学・生物現象の解明を目的とする学問。地球を研究目的とするが、基本的研究手段としてつねに鉱物や岩石などの物質を取り扱うため、マントル上層部以上の岩石圏、とくに地殻上層部が地質学の主要な研究対象である。しかし、地球の研究にとって大きな手助けとなる、月の岩石や隕石(いんせき)など他の天体の物質もまた対象とされる。地質学はその研究対象によって、岩石学、地史学または層序学、古生物学、構造地質学、地震地質学、応用地質学(鉱床学、石油地質学、石炭地質学、土木地質学、水文(すいもん)地質学などを含む)などに細分される。
[木村敏雄]
岩石学はさらに火成岩岩石学(火山岩岩石学)、変成岩岩石学、堆積(たいせき)岩岩石学または堆積学に分けられる。これらの諸岩石が、いつ、いかなる原因で、いかなる経過を経て生じたかを研究する。岩石を構成する単一または複数種の鉱物が物理化学の法則に従って形成されかつ共存するので、これら鉱物の研究が野外における産状の調査研究とともにおもな研究手法となる。鉱床学は金属・非金属鉱床を研究対象とするが、手法はこれらに似る。堆積学は堆積岩そのもののほかに堆積現象をも取り扱う。岩石学の分科である火山地質学は火山岩岩石学を背景に置くが、火山にある溶岩、火山砕屑(さいせつ)岩の性質や分布を調べ、火山噴火の仕方や原因を明らかにする。
層序学は、堆積学の知識をもとにして地層の堆積順序を明らかにし、標準化石を用いてその時代、すなわち層位を明らかにする。またそれにとどまることなく示相化石の研究をあわせて堆積環境の変遷を明らかにする。かつては、時代の決定は標準化石のみによってなされたので、地史学は地層堆積史すなわち層序学と同意とみなされた。しかしながら、放射年代測定が容易に行われるようになったため、地史学は本来の姿として、堆積岩系のみならず、火成岩系、変成岩系をも含め、また構造地質学的な変遷をも含めた総合的な歴史学になってきた。古生物学は化石の記載と分類とを行い、過去の生物の生息環境、進化史について研究する。かつては標準化石、とくに大型化石についての研究によって層序学に大きく寄与した。現在は微化石としての標準化石の研究が行われているが、古環境や、それを踏まえての生物進化の過程の研究に主体が移りつつある。構造地質学は、岩石・地層の中の割れ目、断層、褶曲(しゅうきょく)など地質構造の分布とその成因を研究する。また大陸や海洋、大山脈や大地溝などの分布と成因、それらの形成史を研究する。地震地質学は、新生代第四紀に活動した、今後も活動する可能性のある活断層や、歴史的地震活動記録をもつ断層(地震断層)などについて研究し、地震学に寄与している。
[木村敏雄]
地質学は、鉱床学、石炭・石油地質学などを通じて、地下資源探査に力を発揮し、人類文明の発展に寄与してきたし、いまでもそうである。しかし、地下資源が乏しくなった日本では、土木建設に際しての地盤・岩盤の安定性、地盤・地震災害がおこる原因やそれについての安全性の調査、研究にあたるなど、社会に対する寄与として土木地質学のウェイトが大きくなりつつある。
[木村敏雄]
古くは、ドイツ人のアグリコラが、鉱山の開発に関して、地下での鉱物や岩石の生成について考察している。その後、イギリスのハットンが、現在おこっているのと同じ現象によって、過去の岩石が形成されたことを明らかにして、斉一(せいいつ)説(現行説ともいう)の考えが生まれた。この考えが、イギリスのライエルを通じて、その後の地質学研究の指導原理となった。イギリスで地質図を初めてつくったW・スミスは異なる地層に異なる化石があることをみいだして層序学の基礎を築いたが、その事実もまたライエルを通じて、進化論を生み出すうえで、ダーウィンに大きな影響を与えた。地質学は長く博物学的であった。それを抜けるには岩石の生成や変形についての実験を必要とした。実験岩石学においてはアメリカのボーエンが大きな貢献をした。
日本には1870年代にドイツのナウマン、アメリカのライマンらによって地質学が輸入された。日本人としては、小藤文次郎(ことうぶんじろう)が地質学と岩石学、また横山又次郎(またじろう)が古生物学の創始者である。
[木村敏雄]
『岩生周一・木村敏雄著『一般地質学』(1975・朝倉書店)』▽『R・W・オジャカンガス、D・G・ダービー著、堀福太郎訳『生きている地球』(1979・サイエンス社)』▽『A・ホームズ著、上田誠也他訳『一般地質学Ⅰ~Ⅲ』(1984・東京大学出版会)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
地球,とくにその表層の地殻を構成する岩石を対象とし,その種類,組成,形成の歴史などを研究する自然科学の一分野。欧米語は,ギリシア語で土地を意味するgeōと学問を意味するlogiaとの合成語で,17世紀ころから用いられ,最初は地形,自然地理なども含む広い意味であった。岩石の分類,記載については,古代からの自然史学natural historyの伝統をつぐ。地殻,岩石の形成史は,地球起源論とむすびつくもので,18世紀のヨーロッパではR.デカルトなどの地球起源論--高温の熱球にはじまり,その冷却によって地球全体が水におおわれ,ついで水が減少したとする--が支配的で,それによる水成説ではすべての岩石を水からの沈殿物,また堆積物とした(ドイツのA.G. ウェルナーら)。これに対し,イギリスのJ.ハットンらの火成説は,火山岩や花コウ岩は地球内部の熱により形成されたとした。水成説は冷却とともにすすむ地球の長い歴史を考え,火成説は地球は熱機関として永久に続くと考えた。この論争をへて,産業革命とともに,岩石の形成過程,営力の違いによる区分が確立し,C.ライエルは,堆積岩,火山岩,深成岩,変成岩の4種としている(1838)。堆積岩については,W.スミスが成層状態の観察から地層累重の法則を,また地層に含まれる化石の比較から地層同定の法則を定立し,地層ごとの化石の変化によって地質時代の区分がなされるようになり,またC.ダーウィンらの生物進化の考えに大きな影響を与えた。
地層の形成条件や,機構についての研究(堆積学),化石による地層の区分・対比(生層序学),古環境の復元(古気候学,古地理学),地層・岩石の構造とその形成機構についての研究(構造地質学),さらに地質時代の生物とその変化の研究(古生物学,進化学)など多くの分野が分かれてきており,それらを総合して地球の歴史の復元をすること(地史学)が,地質学の主要な分野をなしている。岩石を構成する鉱物そのものの研究は,早く17世紀に鉱物学として成立していた。19世紀後半から,偏光顕微鏡や化学分析法の進歩によって,岩石の成分としての鉱物の組成,構造,生成条件などの研究,さらに岩石の形成条件,過程についての研究が進み,岩石学という分野となった。これは火成岩や変成岩を対象とすることが多く,狭義の地質学に対しては独立して扱われるが,地球の歴史の研究という広義の地質学の中では重要な部分を占める。
20世紀に入ると,物理学的な研究手段によって,地殻,地球に関する物理量を測定し研究する地球物理学と,地殻中の化学元素の分布の研究からはじまる地球化学とが発達してきた。地質学はこれらに対して,地球,地殻の階層性と歴史性に基礎をおくという特徴を保持しているが,現在では,これら諸科学分野が総合され,地球科学とよばれる傾向が強まっている。さらに月や惑星の探査がすすむ中で,それらの表面の構成物質を地質学的な見方で研究する月の地質学や宇宙地質学も進みつつある。
執筆者:清水 大吉郎
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