一般的抗癌薬の分類と副作用

内科学 第10版 の解説

一般的抗癌薬の分類と副作用(造血器腫瘍の発症機構と治療)

 造血器腫瘍に用いる抗癌薬は,通常その作用機序に基づき分類される.まずDNAを障害する薬剤(図14-7-1)として,核酸合成の前駆物質であるヌクレオチドの合成系を阻害する(核酸)代謝拮抗薬と,合成された高分子DNAに作用する薬剤がある.その他の機序の薬剤として分裂阻害薬,酵素薬,内分泌治療薬,主に免疫的機序をもつ生物学的薬がある.分化誘導薬,分子標的治療薬については次の【⇨14-7-3)】で述べる.いずれの薬剤も主としてアポトーシスによる細胞死を起こす(図14-7-2).造血器腫瘍には白血病,リンパ腫など薬物療法で治癒が可能なものも多く,そのため治療に用いられる各薬剤の主要な作用機序,適応,副作用につき理解することは,特に重要である(表14-7-3).
DNAを障害する薬剤
a.代謝拮抗薬
 ⅰ)ピリミジン拮抗薬
 シタラビン:一部が細胞内で活性型代謝物Ara-CTPにリン酸化され,その一部がDNA内へ転入しDNA修復を阻害する.適応:おもに白血病,リンパ腫.副作用:骨髄抑制,消化器症状.肝障害.大脳・小脳障害・結膜炎(大量投与時)など. 
ⅱ)プリン拮抗薬
 6-メルカプトプリン(6-MP):中間代謝物チオイノシン1リン酸(TIMP)によるIMPデヒドロゲナーゼの阻害などにより作用する.適応:白血病.副作用:骨髄抑制,消化器症状,肝障害.不活性化を担うチオプリンメチル基転移酵素(TPMT)の一塩基多型(SNP)による副作用増強を認める. 
ⅲ)葉酸拮抗薬
 メトトレキサートMTX):ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)阻害による,DNA合成やプリン生合成阻害などにより作用する.LV(ホリナート)レスキュー併用MTX大量療法:治療強度増強や耐性克服を目標に,中等量(100~500 mg/m2),大量(50~250 mg/kg)投与を行う.この際,正常細胞への副作用減弱のため,TDM(治療薬物モニタリング)およびLVレスキューを行う.LVは,DHFRの作用を受けずその下流で直接THFテトラヒドロ葉酸)に代謝され,正常細胞の還元型葉酸のプールを回復する.副作用:骨髄抑制,消化管粘膜障害,腎障害(特に大量療法時),肝障害,肺炎,中枢神経障害.
b.高分子DNAに作用する薬剤
ⅰ)アントラサイクリン・アントラキノン
 ダウノルビシンDNR),ドキソルビシン(DXR)が代表的.DNAトポイソメラーゼⅡの阻害,ならびにキノン構造部位で一電子還元の結果生じる活性酸素による障害などにより作用する.前者は抗腫瘍効果,後者は心毒性の原因とされる.適応:血液癌・固型癌.副作用:骨髄抑制・粘膜障害・脱毛.蓄積毒性である慢性の心毒性は特徴的. 
ⅱ)アルキル化薬
 シクロホスファミドに代表される.構造中のアルキル基がDNAと共有結合し,高分子DNAの機能を阻害する.適応:血液癌,固型癌.副作用:骨髄抑制・脱毛・肺線維症・心筋障害.変異原性強く,不妊・奇形などにも注意する.代謝物アクロレインによる出血性膀胱炎は,本薬とイホスファミドに特徴的で,(後者に)メスナの併用が有効である. 
ⅲ)白金化合物
 シスプラチン:構造中の塩素が水と置換され,荷電状態となり,DNA中でおもに二本鎖間に架橋を形成し作用する.適応:固形腫瘍のキードラッグ.造血系では,リンパ腫に用いる.副作用:腎毒性が特徴的.骨髄抑制は軽度. 
ⅳ)エピポドフィロトキシン
 エトポシド:選択的トポイソメラーゼⅡ阻害薬.適応:幅広い.造血系では悪性リンパ腫,白血病に用いる.副作用:骨髄抑制,間質性肺炎.脱毛.特徴的染色体異常(11q23)を有する二次性白血病.
ⅴ)カンプトテシン誘導体
 イリノテカン(CPT):トポイソメラーゼⅠを阻害する.適応:固型癌,悪性リンパ腫など.副作用:骨髄抑制,消化器症状,脱毛など.激しい下痢は特徴的である.
c.その他の薬剤
ⅰ)微小管阻害薬
 植物アルカロイド:ビンカアルカロイド(ビンクリスチン,ビンブラスチン):チューブリンに結合し微小管の生成を阻害する分裂毒として作用する.適応:主に血液癌・小児癌.副作用:神経毒性,知覚障害,麻痺性イレウス,抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH). 
ⅱ)酵素薬
 l-アスパラギナーゼ(l-ASP):非必須アミノ酸アスパラギン(Asn)の合成系が欠損する一部の癌細胞では,本酵素によりAsnを枯渇させれば腫瘍細胞のみ死に至る.適応:急性白血病.悪性リンパ腫.副作用:骨髄抑制はない.それ以外は多彩であり,過敏症(まれに死亡),凝固異常,急性膵炎,糖尿病,高アンモニア血症,意識障害,肝障害などがある. 
ⅲ)副腎皮質ステロイド
細胞質内で受容体と複合体を形成し核内へ移行し,細胞をアポトーシスに導く.リンパ系腫瘍に有効.副作用:リンパ球の抑制以外の造血障害はないが,その他の副作用は多彩である. 
ⅳ)生物学的薬(おもに免疫的機序)
1)インターフェロン(IFN):
NK細胞,T細胞などの免疫学的効果やMHCクラスⅠの増強などにより作用する.適応:有毛細胞白血病.副作用:間質性肺炎,抑うつ,感冒様症状などがある.
2)免疫修飾薬(immunomodulatory drugs:IMiDs):
サリドマイド,レナリドミドがある.免疫修飾作用,血管新生抑制作用などを認めるが,詳細な機序は不明である.適応:骨髄腫に有効で,後者は骨髄異形成症候群,特に5q-症候群に著効を示す.副作用:催奇形性は,過去に睡眠導入剤として使用時に多発したことで知られる.深部静脈血栓症,肺血栓塞栓症,眠気,白血球減少,末梢神経障害,間質性肺炎なども認める.[上田孝典]
■文献
上田孝典:がんの治療5 薬物療法.入門腫瘍内科学(入門腫瘍内科学編集委員会編),pp114-119,篠原出版新社,東京,2009.
Chabner BA, Longo DL eds: Cancer Chemotherapy and Biotherapy. Lippincott Williams & Wilkins, Philadelphia, 2011.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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