翻訳|nucleotide
ヌクレオシドの糖部分にリン酸がエステル結合したものの総称。リボヌクレオチドでは糖の2'位、3'位、5'位にリン酸のついた異性体があり、デオキシリボヌクレオチドには3'位、5'位の異性体がある。ヌクレオチドが3'位と5'位で縮合した、すなわちリン酸が相隣るヌクレオシド間の3'位と5'位の間をジエステル結合によって結び付けた重合体を、ポリヌクレオチドという。天然の核酸を酵素的に分解すると、用いた酵素の性質によって3'位または5'位の異性体が選択的に生成される。リボ核酸(RNA)をアルカリで加水分解すると、2'位と3'位の異性体の混合物としてヌクレオチドが得られる。このとき、中間体として2'位と3'位の環状リン酸が形成されるが、諸種のリボヌクレアーゼの作用も同様に環状リン酸を中間体として生ずることが知られている。5'位のリン酸に、さらにリン酸、ピロリン酸が縮合したものを、それぞれヌクレオシドジリン酸、トリリン酸とよぶ。ジリン酸(ADP)、トリリン酸(ATP)をはじめとするこれらの化合物は、高エネルギーリン酸化合物としてエネルギー代謝に直接関与する。また、酸化還元反応の補酵素NAD(ニコチン(酸)アミドアデニンジヌクレオチド)やFAD(フラビンアデニンジヌクレオチド)、あるいは基転移反応に関与する諸物質(補酵素AやCDPコリンなど)中でも、これらのヌクレオチドが構成成分になっている。
ヌクレオチドの生合成は、ピリミジン系ではまず塩基環ができてからグリコシド結合が形成されるのに対し、プリン系ではリボース-5-リン酸にグリシンその他の分子が順次結合して塩基部分ができあがる。デオキシリボヌクレオチドは、リボヌクレオチドの糖部分の還元によって生成する。このほか、特殊なヌクレオチドとして3'・5'-環状AMP(アデノシン一リン酸)が特異な情報活性を示すことが報告されている。ヌクレオチドの糖とリン酸との間の結合を加水分解して無機リン酸とヌクレオシドを生成する酵素をヌクレオチダーゼという。
[景山 眞]
食品に含まれるヌクレオチドはうま味を呈する成分として重要である。その代表的なものがカツオのうま味の主成分の5'-イノシン酸とシイタケのうま味の主成分の5'-グアニル酸である。この両者のうま味成分は、酵母や微生物を原料に、ナトリウム塩として製造され、核酸系調味料とよばれている。主成分であるグルタミン酸ナトリウムに少量(5~12%)の核酸系調味料を配合すると強いうま味が出る。これを複合調味料とよび、一般にだし用として普及している。
[河野友美・山口米子]
『水野義久・光延旺洋著『合成化学シリーズ ヌクレオシド・ヌクレオチドの合成』(1977・丸善)』▽『林浩平著『現代の栄養学』(1986・三共出版)』▽『山田秀明編『酵素の新機能開発』(1987・講談社)』▽『ウォルフラム・ゼンガー著、西村善文訳『核酸構造(上)』(1987・シュプリンガー・フェアラーク東京)』▽『C・R・パターソン著、村地孝監訳『ヒューマン バイオケミストリー』(1990・化学同人)』▽『藤田敏郎他著『日本人の食習慣の特徴と疾患』(1992・第一出版)』▽『谷吉樹著『応用微生物学』(1992・コロナ社)』▽『有坂文雄著『スタンダード 生化学』(1996・裳華房)』▽『藤野安彦編、片山真之・片山洋子著『食品・栄養のための生化学』(1996・産業図書)』▽『木本英治著『ヌクレオチドの分子栄養学』(1997・開成出版)』▽『三浦謹一郎編『構造生物学』(1998・朝倉書店)』▽『P・リッター著『リッター生化学』(1999・東京化学同人)』▽『D・ヴォート他著、田宮信雄他訳『ヴォート基礎生化学』上下(2000・東京化学同人)』▽『林淳三監修、木元幸一・後藤潔編著『生化学――人体の構造と機能』(2003・建帛社)』
核酸の構成単位にもなる低分子生体物質。塩基と糖がN-グリコシド結合したものをヌクレオシドnucleosideと呼び,ヌクレオシドの糖部分にリン酸がエステル結合したものをヌクレオチドと呼ぶ。塩基部分はプリン塩基,またはピリミジン塩基で,糖部分がリボースのものをリボヌクレオチドribonucleotide,デオキシリボースのものをデオキシリボヌクレオチドdeoxyribonucleotideと呼ぶ。これらは重合して,前者はRNA,後者はDNAを形成する。ヌクレオチドは単独でも重要な生体機能をもち,環状AMPのように代謝調節因子となるものもある。また,FADや,NADなどの補酵素の成分ともなる。さらにATPのようにリン酸の供与体や,エネルギーの供与体としての役割をもつものもある。
執筆者:柳田 充弘
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ヌクレオシドのリン酸エステルの総称.核酸はヌクレオチドの重合体であり,ポリヌクレオチドという.ヌクレオチドを単量体として表すときにはモノヌクレオチドといい,2個以上10個程度までの重合体をオリゴヌクレオチドという.構成糖の違いによりリボヌクレオチドとデオキシリボヌクレオチドがあり,また,リン酸基の結合位置の相違により5′-,3′-または2′-リボヌクレオチドとよぶ.ヌクレオシド5′-二リン酸の代表的なものは,ADP,GDP,CDP,UDPであり,ヌクレオシド5′-三リン酸では,ATP,GTP,CTP,UTP,dATP,dGTP,dCTP,TTPがよく知られている.そのほか,補酵素作用のあるNAD,NADP,FMN,FADなどもヌクレオチドとよばれることがある.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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[核酸の基本構造]
DNAもRNAも基本構造は共通で,核酸塩基nucleic acid base(通常は単に塩基と略す)と五炭糖pentoseよりなる単位がリン酸を介して一次元的に連なっている(図1)。塩基と糖からなる単位をヌクレオシドnucleosideと呼び,これにリン酸基のついた単位をヌクレオチドnucleotideと呼ぶ。DNAとRNAの化学構造上の差は次の2点にある。…
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[核酸の基本構造]
DNAもRNAも基本構造は共通で,核酸塩基nucleic acid base(通常は単に塩基と略す)と五炭糖pentoseよりなる単位がリン酸を介して一次元的に連なっている(図1)。塩基と糖からなる単位をヌクレオシドnucleosideと呼び,これにリン酸基のついた単位をヌクレオチドnucleotideと呼ぶ。DNAとRNAの化学構造上の差は次の2点にある。…
…5′‐イノシン酸(5′‐IMP),5′‐グアニル酸(5′‐GMP)などの呈味性ヌクレオチドをはじめとするきわめて多数の核酸関連物質の微生物による生産の総称。
[呈味性ヌクレオチドの生産]
1913年に小玉新太郎は鰹節のうま味の主成分がイノシン酸のヒスチジン塩であると報告した。…
※「ヌクレオチド」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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