下垂体前葉機能検査

内科学 第10版 「下垂体前葉機能検査」の解説

下垂体前葉機能検査(視床下部・下垂体)

 下垂体機能異常の診断においては,病因検索とともに下垂体ホルモンの分泌能と分泌調節機序に異常があるかどうかを明らかにする.血中下垂体ホルモン濃度はおもに下垂体機能を反映するが,視床下部機能や末梢標的内分泌臓器のホルモンによるフィードバック機構からも影響を受ける.血中ホルモン値が低い場合には分泌刺激に対する反応性から分泌予備能を,血中ホルモン濃度が高い場合には分泌抑制に対する反応性から抑制機構の異常について評価する.
(1)血中ホルモンの基礎値
 下垂体前葉ホルモンは,対応する末梢標的内分泌臓器のホルモンとペアで同時測定することが重要である(図12-2-6).ホルモン分泌の低下が末梢内分泌臓器の障害による原発性の機能低下では,ネガティブフィードバック機構の減弱により下垂体前葉ホルモンは高値をとるが,視床下部・下垂体の障害による続発性の機能低下では,下垂体前葉ホルモンは低値または基準範囲内にとどまり高値にならない.
 成長ホルモン(growth hormone:GH)はおもに肝臓に働いてインスリン様成長因子-Ⅰ(IGF-Ⅰ)の合成を促進するため,肝障害や栄養障害などがない場合,血中IGF-Ⅰ濃度はGH分泌と作用を反映する.
(2)分泌刺激による分泌予備能の評価(表12-2-1)
1)4者負荷試験(CRH+GnRH+TRH+GRH試験):
下垂体前葉に直接作用するCRHGnRHTRHGRHを同時に投与することで,下垂体レベルでの予備能を知ることができる.視床下部ホルモン負荷を個別で行うこともある.下垂体障害では低~無反応である.一方,視床下部障害において,CRHに対するACTH分泌が過剰増加反応を示したり,TRHに対するTSH分泌が遅延増加反応を示すことがある.GRHに対するGH分泌はみられることが多い.GnRHに対するLH,FSH分泌は初期に過剰増加反応を示すが,その後,低~無反応となる.視床下部障害ではGnRHを連続投与するとLH,FSHの分泌増加反応が回復する.
2)インスリン低血糖試験(ITT):
速効性インスリン(通常0.1 U/kg体重)を静脈内投与し低血糖を誘発して血中ACTH,コルチゾールおよびGH分泌の増加反応を評価する.視床下部・下垂体系の総合評価が可能であるが,低血糖を誘発するため,検査中と終了後も十分に観察することが必要である.高齢者(65歳以上),痙攣の既往がある患者,虚血性心疾患患者などでは禁忌である.
3)GHRP-2試験:
GHRP-2はグレリン作動薬であり,視床下部GRH分泌を促進し,ソマトスタチンの作用を遮断することで,強力なGH分泌促進作用を有する.ヒトではGH分泌以外にACTH分泌やプロラクチン分泌を促進する.
4)グルカゴン試験:
グルカゴンの皮下投与により,血糖増加とインスリン分泌が促されるが,投与後2から3時間でGH分泌とACTH,コルチゾール分泌が促進される.
5)その他のGH分泌刺激試験:
塩酸アルギニン点滴静注やレボドパ経口投与(小児),クロニジン経口投与(小児)などによって視床下部を介したGH分泌能が評価できる.
6)クロミフェン試験:
クロミフェンがエストロゲン受容体に結合し視床下部に作用して,GnRH分泌増加を起こし,LH,FSHが上昇する.
(3)抑制機序を利用した分泌調節機構の評価(表12-2-1)
1)少量および大量
デキサメタゾン抑制試験:
グルココルチコイドはネガティブフィードバック機構を介してACTH分泌を抑制し,副腎皮質のコルチゾール産生と分泌を抑制することを利用した検査である.一晩少量迅速法では,前夜11時にデキサメタゾン1 mgを経口投与し,翌朝9時の血中コルチゾール値が5 μg/dL以下に抑制されるかどうかを判定する.Cushing病を疑う場合,日本では0.5 mgのデキサメタゾンを用いる.一晩大量抑制試験では8 mgを用いる.標準デキサメタゾン抑制試験(8 mg/日,2日間)では2日目の尿中遊離コルチゾール排泄が前値の半分以下に抑制される.
2)グルコース負荷試験:
75gのグルコースを経口投与すると健常人では血中GHは1(0.4)ng/mL未満に抑制される.先端巨大症肝硬変腎不全,思春期などにおいて基準値以下に抑制されず,逆に増加反応を示すことがある.
3)ソマトスタチンアナログ負荷試験:
ソマトスタチン誘導体であるオクトレオチド(50 μg)皮下注射後,GHの動態をみる.薬剤の治療効果予測に用いられる.
4)ブロモクリプチン負荷試験:
ブロモクリプチン(2.5 mg)投与後,血中PRLの低下を観察する.健常人においてGH分泌は促進されるが,先端巨大症患者の一部(約6割)においてGH分泌抑制効果が認められる.
5)その他:
TSH分泌異常症におけるT3抑制試験,テストステロンまたはエストラジオールによるゴナドトロピン分泌抑制試験などがある.
(4)異常な分泌調節機序の評価
 TRHやGnRH負荷において健常人ではGHの増加を認めないが,先端巨大症,神経性食欲不振症,肝硬変,うつ病などの一部において増加がみられる.ブロモクリプチン負荷において,先端巨大症患者の一部でGH分泌の抑制がみられる.これらは診断の手助けになるとともに,異常反応の消失は治療効果の判定にも役立つ.[島津 章]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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