製造業、保険業、ホテル・娯楽業を主要部門とするアメリカの複合企業。かつては国際電信電話会社で電話通信機器の有力メーカーとしても知られていた。1960年代以降は250社以上の異業種企業を買収して世界最大規模のコングロマリット(巨大複合企業)となった。しかし、1980年代に入り規制緩和などで競争が激化し、その200社以上を売却。1990年代以降は自動車部品などの製造、保険、ホテル・娯楽の3部門を中核とした事業に転換し、1995年にはそれぞれを分割した。社名ITTはインターナショナル・テレフォン・アンド・テレグラフInternational Telephone & Telegraph Corp.の略称であり、1983年5月にITT Corp.に改称された。
[佐藤定幸・萩原伸次郎]
1920年にソスシーンズ・ベーンSosthenes Behn(1882―1957)によって設立されたときには、プエルト・リコの小電話会社にすぎなかった。同社がその名に値する国際的な電話通信会社となったのは、1925年からである。その年ウェスタン・エレクトリック(AT&Tの子会社)が反トラスト法違反による訴追を恐れて、海外事業部門を分離した。ベーンは、その事業部門をモルガン銀行の援助のもとに買い取った。ここからITTの飛躍が始まる。その後、中南米とヨーロッパで精力的に事業を拡大し、すでに第二次世界大戦前に巨大会社の一つに成長していた。
同社を1980年代初頭に世界最大級の多国籍企業とよばれるまでにしたのは、1959年にミサイル生産で知られるレイセオン社Raytheon Co.の副社長ハロルド・S・ジェニーンHarold Sydney Geneen(1910―1997)をITT社長として引き抜いたあと展開した猛烈なコングロマリット的合併活動であった。レンタカー会社として有名なエイビス、ホテル・チェーンとして名高いシェラトンおよびホリデイ・イン、大手製パン業者の一つコンチネンタル・ベーキングなど多数の会社を合併したが、とくに重要なのは1971年のハートフォード火災保険の買収であった。ITTは1973年のチリの政変に一役買ったとして、開発途上諸国から非難を受けた。
[佐藤定幸・萩原伸次郎]
1990年代に入るとITTは、三つの主要分野に事業内容を特化させ、1995年にはそれぞれの事業分野をスピンオフspin-off(会社が事業所などを独立させ、子会社の株を買い取り親会社の株主に分配すること)した。そのうち、第一のグループの工業部門が分離して設立されたITTインダストリーズITT Industries Inc.が、旧ITTの実質的な存続企業である。同社は自動車部品、電子製品、流体技術製品などを製造し、そのなかでももっとも大規模な自動車部品の製造部門は、つねに新製品開拓に余念のない独立系の部品システム供給業者である。ITTインダストリーズの1998年の売上高は44億9270万ドルであった。第二のグループである保険部門のITTハートフォード・グループは、ハートフォード・ファイナンシャル・サービス・グループThe Hartford Financial Services Groupとして独立。総合保険会社としては国内最大手の一つである。第三のグループのホテル・娯楽・情報サービス部門は、1968年からITTの完全所有子会社となったシェラトン・ホテルを運営するITTシェラトンITT Sheratonを中軸として展開され、組織再編後はITT Corp.の社名を引き継いで独立した。カジノ・ホテル大手のシーザーズ・ワールド社も1970年以降ITT傘下となっている。そのほかに複合娯楽施設のマディソン・スクエア・ガーデン、国内および海外で電話帳を出版するITTワールド・ダイレクトリーズITT World Directories Inc.や技術部門での学位認定機関であるITT教育サービスITT Educational Services, Inc.も傘下に収める。
[佐藤定幸・萩原伸次郎]
ITTシェラトンは1998年にスターウッドホテル・アンド・リゾートワールドワイドStarwood Hotels & Resorts Worldwide, Inc.に買収され、マディソン・スクエア・ガーデン、ITTワールド・ダイレクトリーズなどもそれぞれITTの手を離れた。そして、ITTインダストリーズが2006年に社名をITT Corp.に戻し、おもにポンプやバルブ、軍事電子機器、電子部品などを製造している。2008年の売上高は117億ドルであった。
[編集部]
International Telephone & Telegraph Corp.から1983年5月現社名ITT Corp.に変更。通信機器の有力メーカーであるとともに,ハートフォード火災保険を所有し,また,エレクトロニクス,自動車関連部品,ホテル,家庭用品,資源開発などにも展開する世界最大のコングロマリット。本社ニューヨーク。1920年,AT & T(アメリカ電話電信会社)の海外資産を引き継いで,アメリカの国際電信事業会社として,ベーンSosthenes Behnによって設立された。60年代に入って,社長H.S.ジェニーンは企業の買収,合併を活発に行って業容を多岐にわたって拡大し,ITTを多国籍コングロマリットへと変貌させた。傘下の事業には,保険のほか,ホテル(シェラトン・ホテル),化粧品,オートメーション部品,食品等々がある。通信機器の製造を主にヨーロッパの100%出資子会社で行うなど,海外への展開に力を入れた。1995年に三つの会社に分割され,実質的な継承会社は工業部門を引き継いだITT Industries, Inc.で,防衛関連電子製品や,ポンプやバルブなど液体処理製品などを生産している。本社ニューヨーク州。ITTインダストリーズ社の売上高68億ドル(2004年12月期)。
執筆者:青木 良三
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