作家。本名本田恵美子。神奈川県横浜市生まれ。6歳から高校卒業までを千葉県館山市で過ごす。明治大学政経学部(二部)卒業。大学の夜間部に通いながら昼間は運送会社に勤務、そのかたわら創作に熱中して、高校生の恋愛・性体験を描いた自伝的な作品『海を感じる時』(1978)を書き上げる。この作品が『群像』新人文学賞に当選、若い世代の共感を得てベストセラーともなり中沢は華々しい作家デビューを果たす。海のシンボリズムを軸に、セックス、女性性、親子関係といった素材をとりこみつつも、技巧に頼らないストレートかつ強烈な表現力によって若々しい純情さを描いている。以降の中沢の作品は、この溢れるような過剰さの表出だった処女作との格闘であったともいえる。1981年(昭和56)、『野ぶどうを摘む』を発表、その後、『女ともだち』(1981)、『ひとりでいるよ一羽の鳥が』(1983)、『風のことば海の記憶』(1983)など安定したペースで執筆活動を続け、85年、『水平線上にて』で野間文芸新人賞を受賞。これはある意味で『海を感じる時』の続編ともいえる作品だが、文体はかなり変わり、あえて屈曲の多いセンテンス構造を持ちこむことで意識の襞(ひだ)に分け入っていこうとする構えがはっきりと見えてくる。80年代という時代の中で、中沢の言語意識も先鋭化してくる。とはいえ、処女作以来の鋭敏な生理感覚は健在で、それが小説世界の土台となっていることに変わりはない。
その後の作品に『喫水』(1988)、『首都圏』(1991)、『仮寝』(1993)などがある。『豆畑の夜』(1995)にまとめられた作品群に顕著に見られるように、多くの中沢作品は微妙な文体実験(たとえば主語の扱い、視点人物と語り手の距離の取り方など)をともなった切っ先の鋭い理知性と、官能に根を持つ情念のとらえどころのなさとの絡み合いとして読むことができる。99年(平成11)『群像』誌上に一挙掲載された600枚に及ぶ長編「豆畑の昼」では、題名のとおり、落花生の畑に囲まれた著者ゆかりの房総半島の土地を舞台に、長年に及んだ男と女の関係が描かれている。中沢が近年とくに関心を示す都市景観の移り変わりと、人間関係の変化とをだぶらせた点が特徴で、ゆったりとした時間の流れを、ところどころ意図的に隙間をもたせた文体で語っている。
[阿部公彦]
『『水平線上にて』(1985・講談社)』▽『『仮寝』(1993・講談社)』▽『『豆畑の夜』(1995・講談社)』▽『『豆畑の昼』(1999・講談社)』▽『『海を感じる時・水平線上にて』(講談社文芸文庫)』▽『『野ぶどうを摘む』『ひとりでいるよ一羽の鳥が』(講談社文庫)』▽『『女ともだち』(河出文庫)』▽『『風のことば海の記憶』(中公文庫)』▽『『喫水』『首都圏』(集英社文庫)』▽『近藤裕子著「作家案内中沢けい 中沢けいという文体」(『海を感じる時・水平線上にて』所収)』
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