交通外傷(読み)こうつうがいしょう

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

交通外傷
こうつうがいしょう

交通機関という外力によって生ずる生体の障害をいい、交通機関の種類によって、軌道上の外傷、路上の外傷、航空機による外傷、船舶による外傷などに大別される。
 列車、電車などにひかれて死亡するのを轢死(れきし)というが、もともと轢死は、自殺、過失ないしは災害死であって、他のなんらかの方法で殺害した死体を軌道上に横たえ、自殺を偽装させるということはきわめてまれといわざるをえない。轢死体にしばしばみられる所見としては、眼瞼(がんけん)部における表皮剥脱(はくだつ)を伴わない皮下出血、手背面および足背面における表皮剥脱を伴わない皮下出血、睾丸(こうがん)・陰嚢(いんのう)・陰茎における皮膚粘膜損傷を伴わない出血などがあげられている。なお轢断部においては、出血、腫脹(しゅちょう)、周辺部の組織内出血のような生活反応を伴わないことが多いので、これらの生活反応がみられないからといって、ただちに死後轢断とはいいえない。生体にきわめて強大な外力が作用したような場合、たとえば列車、航空事故、またはきわめて高所から墜落したようなときには、瞬時的なショック死をおこし、受傷部位に生活反応が微弱であったり、生活反応がみられないこともしばしばありうる。また列車による轢過の際には、内臓器が轢断ないし挫滅(ざめつ)(つぶれた状態をいう)しているにもかかわらず、皮膚が切断されないでつながっていることがある。
 自動車による創傷群には、衝突創といって、特徴ある創傷が一定の部位に形成される。これらの創傷を形成するものとしては、一般にバンパー、マスコット、ボンネット、フロントガラス、フェンダー、バックミラー、ドアハンドルなどがある。バンパーは四輪車のもっとも低い最前部にあって、衝突時に歩行者の下肢に損傷を生ずる。その高さは通常、バス、トラックなどの大型車では大腿(だいたい)部に相当し、乗用車、普通四輪貨物車では下腿の上部に相当する。バンパーによる創傷は皮下出血、表皮剥脱、挫創(ざそう)としてみられるが、後方からの受傷では、ときには表面に軽微な異常しかみられないで、筋層の深部に挫滅がみられることがある。時速50キロメートル前後の四輪車と歩行者の衝突では、通常、前方および側方からのバンパー創で骨折がみられるが、後方からの衝突では、時速100キロメートル以上の事故で初めて骨折がみられるといわれている。バンパーの形状と高さはその車種によって一定しているので、バンパー創の形状と足底からの高さは車種推定の参考になる。ただしバンパーの位置は可動性で、加速時には最高4~5センチメートルの上方移動が、減速時には最高10センチメートルの下方移動がみられると報告されているので、車種推定には慎重を要する。歩行者は、自動車との衝突後は、いかなる経過をとっても、ついには地上に転倒して、頭部、顔面部、その他の体の突出部または露出部に、表皮剥脱、皮下出血、挫創、骨折などの転倒創を形成し、土砂を付着することが多い。このうち、とくに頭部に存する創傷は重要で、しばしば致命傷となることが多く、車にはねられたあとでひかれたような場合の死因の優先権を決定する際には重要である。
 また、自動車にひかれた場合には、轢創といって、タイヤマーク傷、剥皮創、伸展創などが生ずる。タイヤは車種によって異なるが、接地面の紋様は、ラグ型、リブ型、ブロック型、混合型に大別される。これらの紋様においては、溝部によって皮内出血または皮下出血が生じ、山部によって表皮剥脱が生ずる。これらがタイヤマーク傷であり、この傷をもとにタイヤの種類が推測できる。また、タイヤ側面によっても表皮剥脱がみられるし、着衣にみられるタイヤマークも特徴的なものである。剥皮創とは、皮膚がほぼ原型を保ったまま剥離する状態をいうが、主として四肢が轢過されたときには、タイヤの摩擦力と牽引(けんいん)力とによって、皮膚と筋膜(きんまく)との結合が断たれて皮膚が広範囲にわたって剥離し、ときには皮膚が断裂して筋層を露出することもある。これを剥皮創デコルマンといい、その幅はタイヤの路面の幅に一致することが多い。剥皮創デコルマンは頭部、躯幹(くかん)(胴体部)にもみられることがある。
 さらに、自動車による衝突、轢過、轢圧などの場合に、直接外力が作用した部位より離れた皮膚が過度に伸展され、皮膚表面に多数の亀裂(きれつ)創群がみられることがあり、これを伸展創とよんでいる。伸展創の好発部位は鼠径(そけい)部(ももの付け根)、下腹部、前頸(ぜんけい)部、乳上腕移行部、肘窩(ちゅうか)部、膝窩(しっか)部などで、皮膚割線の方向に一致して浅在性の平行した亀裂(きれつ)がみられる。伸展創と同じ過程を経て生ずる大きく口をあけた開創(しかいそう)を披開裂創という。
 一般に自動車による外傷は、外表における創傷が比較的少ない場合にも、肋骨(ろっこつ)、骨盤、脊椎(せきつい)骨折をはじめとして、諸臓器の破裂ないしは挫滅がきわめてひどく、臓器の転移脱出などもみられるのが通常である。とくに多いのが頭部外傷である。
 一方、運転者および同乗者にみられるおもな創傷は、対向車または路上物体との衝突、または高速時における急停止などによって、ハンドル、ダッシュボード、フロントガラスなどで生ずる顔面部、胸部、上下肢などの打撲傷、擦過傷、挫裂創である。とくに顔面部および胸部の打撲傷は致命的で、頭腔(とうこう)内出血や、心・肺の破裂で死亡する場合が多い。[船尾忠孝]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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