日本大百科全書(ニッポニカ) 「低体温法」の意味・わかりやすい解説
低体温法
ていたいおんほう
重要な臓器や組織の酸素需要を減らす目的で体温を下げる方法をいう。このようにすれば、循環状態が悪化しても生体は耐えられるからである。低体温の程度によって、30℃までを軽度低体温、25℃までを中等度低体温、20℃までを高度低体温、それ以下を超低体温と分けている。体温が下がるほど循環遮断などによる酸素欠乏に耐えられるわけである。
冷却方法は、患者の体をビニル布で包んで氷水につける方法、患者を冷水の通る管が入っている冷却ブランケットで包む方法、体腔(たいくう)内に氷水を入れる方法、あるいは血液を外に導いてこれを冷却し、ふたたび冷却した血液を体の中に導いてやる方法などがある。いずれにしても、患者をいきなり冷却すると、体温下降を防ごうとする防御反応である、ふるえがきてしまう。これを予防するために、あらかじめ全身麻酔を行っておく必要がある。このようにして冷却を始めると、体温下降とともに酸素需要も減少し、20℃では、酸素需要量は最初の20%程度となる。血圧もしだいに低下し、脈拍数も少なくなってくる。呼吸数も減り、20℃以下では脳波も平坦(へいたん)となる。各温度における安全血流遮断時間は、30℃で10分、25℃で30分、20℃で60分とされている。
低体温の必要がなくなれば、ただちに加温操作に移るが、これには冷水のかわりに温水を用いる。なお、冷却・加温に際しては、生体の反応をできるだけ抑えておくために、全身麻酔や自律神経遮断薬などを適宜用いる。低体温法を用いる場合としては、心臓内の手術と、脳外科で脳に行く血流を一時遮断しなければならないときがおもであるが、ほかに、脳外傷や心停止後におこる脳浮腫(ふしゅ)の予防、高熱症の治療といった治療的使用があげられる。
[山村秀夫・山田芳嗣]