低線量被曝(読み)ていせんりょうひばく(その他表記)low-dose exposure

日本大百科全書(ニッポニカ) 「低線量被曝」の意味・わかりやすい解説

低線量被曝
ていせんりょうひばく
low-dose exposure

被曝線量が200ミリグレイ(mGy)未満の被曝

 放射線が通過した箇所では、放射線のエネルギーが吸収される。人体が大量の放射線を浴び、放射線のエネルギーを吸収すると細胞死を起こし、少量の場合には細胞は突然変異を起こす。この吸収される放射線の線量(吸収線量)の単位がグレイ(Gy)であり、1グレイは「物質1キログラム当りに1ジュール(J、エネルギー量の単位)のエネルギーを放射線から受けたこと」を意味する。原子放射線の影響に関する国連科学委員会(United Nations Scientific Committee on the Effects of Atomic Radiation:UNSCEAR)の定義によれば、総被曝線量が200ミリグレイ未満を「低線量被曝」、200~2000ミリグレイ未満を「中線量被曝」、2000ミリグレイ以上を「高線量被曝」としている。

 一方、類似した表現に「線量率」があり、これは、単位時間当りの放射線の量で定義され、1分当り0.1ミリグレイ未満の強さの放射線を「低線量率放射線」、その被曝を「低線量率被曝」、1分当り100ミリグレイ以上の放射線を「高線量率放射線」、その被曝を「高線量率被曝」とよんでいる。

 放射線による健康影響では、放射線をどの程度、つまり「量」として被曝したかが重要であるが、「量」ばかりでなく、線量率も重要である。高自然放射線被曝の地域住民の調査結果では、同じ被曝線量であれば、低線量率の人で発がんリスクが低かった。また、低線量を長期間被曝するよりも、高線量を短期間に被曝するほうが健康影響が大きい。

 東日本大震災後の東京電力福島第一原子力発電所事故による放射性物質飛散により、低線量被曝による健康リスク上昇が懸念されている。

[安村誠司 2020年2月17日]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「低線量被曝」の意味・わかりやすい解説

低線量被曝
ていせんりょうひばく
low dose exposure

通常の放射線利用で受ける線量で問題になる健康面での影響は,癌および遺伝的影響の発生の確率が高くなるのではないかという点である。広島・長崎原爆被爆者の疫学調査結果では,被曝線量が 200mGyを超える場合には,線量の増加に伴い有意な癌の増加が認められるが,200mGy以下の低線量域では統計的に有意な増加は認められていない。この十分な疫学集団の得られていない低線量域についての考え方は,放射線・原子力利用における論点の一つになっている。すなわち,癌と遺伝的影響に関してはしきい線量が存在しないという考え方,リスクという確率的概念を導入して受容可否を論じる考え方,しきい線量が存在し被曝をそれ以下に抑えればよいという考え方,被曝そのものを認めない考え方,放射線が低線量の場合健康にはかえってよい効果を与えるとする考え方 (放射線ホルミシス効果) など,多くの議論がある。

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