化学辞典 第2版 「体系名」の解説
体系名
タイケイメイ
systematic name
化学界では,IUPAC(アイユーパック)が中心となって統一的な命名を勧告し,命名に際しての混乱を避ける方策が講じられている.有機化合物および無機化合物の規則はBlue book(1979,1993年)およびRed book(2001年)とよばれている2冊子が,物理量に関する記号についてはIUPAP(International Union of Pure and Applied Physics)と共同でGreen book(3rd,2007年)とよばれている冊子が,また,化学で使用される技術用語についてはGold book(2nd,1997年)とよばれている冊子が,それぞれ出版されている.生化学(1992年)に関しては,IUBMB(International Union of Biochemistry and Molecular Biology)と共同で,さらに,分析化学(3rd,1997年),高分子化学(1991年)に関しても,同様な冊子が出されている.とくに有機化合物については,IUPACにより1892年から命名の規則に関する知識があれば,化合物名から構造式が描けることを目標に化合物を系統的に命名する方法が検討されてきた.現在では,命名法として6種類(置換命名法,基官能命名法,付加命名法,減去命名法,接合命名法,代置命名法)が定められ,命名の際の規則がIUPACなどから勧告されている.過去に推奨された歴史もあり,置換命名法がもっとも多く使用されているが,基本的に複数の命名が可能で,しばしば異なった命名法に基づく化合物名が併用される.たとえば,化合物Aは置換命名法ではcyclohexanolであり,基官能命名法ではcyclohexyl alcoholとなる.化合物Bは置換命名法ではthiacyclopentaneであり,付加命名法ではtetrahydrothiopheneとなる.化合物Cは炭水化物の体系的命名法では2-deoxy-D-erythro-pentoseであり,減去命名法ではD-deoxyriboseとなる.アミノ酸であるフェニルアラニンから誘導される化合物Dは,IUPACの体系名は2-amino-3-phenylpropan-1-ol,IUPAC-IUBではphenylalaninol,また,CAS([別用語参照]CAS(キャス)登録番号)では接合命名法を用いてα-aminobenzenepro-panolと命名している.化合物Eは,DBUと略称されて多用される塩基であり,代置命名法を用いた1,8-diazabicyclo[5.4.0]undec-7-eneが用いられている.膨大な化合物が登録されているCASでは,複数の命名が存在すると混乱するので1種類に絞るような独自の規則を設けている(1992年).上記の6種類の命名法のうち,後3種類の方法についてはその方法を使用しないと命名が複雑になるような場合以外は使用しないとされている.有機化合物については非体系的化合物名も重要で,IUPACとIUB(IUBMBの前身)またはIUBMBとの共同で定められたアミノ酸(1975,1984年)や炭水化物(1996年)の命名とともに,ステロイド(1989年),テルペノイド(1999年),アルカロイド(1998年),テトラピロール(ポルフィリン,1987年),さらに,スフィンゴ糖脂質(1977年)やフラボノイド(1999年)など多様な天然有機化合物群について慣用名が整理され,規則が学術誌などに公表されている.[別用語参照]化学物質命名法
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報