何をなすべきか(読み)なにをなすべきか(その他表記)Chto delat'

改訂新版 世界大百科事典 「何をなすべきか」の意味・わかりやすい解説

何をなすべきか (なにをなすべきか)
Chto delat'

19世紀ロシアのインテリゲンチャにとってつねに心をさわがせた問いかけ。1863年チェルヌイシェフスキー獄中で,同名の小説を書いた。これは〈新しい人たち〉の相互関係,道徳,生き方をベーラ・パブロブナという女性とその最初の夫ロプーホフ,第2の夫キルサーノフという3人を主人公として描いたものである。このほかに,彼らよりももっと徹底した生き方をするラフメートフという青年が描かれている。質素な生活をし,精神と肉体を鍛錬して拷問にも耐えられるようにする人物である。著者は,彼のような人物は〈少ない。しかし彼らのおかげですべての者の生活が花を開く〉,彼らは〈茶のなかのテイン〉〈原動力の原動力〉〈地の塩の塩〉だと書いている。この小説はロシアの幾世代もの青年たちを育てることになった。

 1882年,トルストイ国勢調査の調査員としてモスクワ貧民街を訪れ,そこでの観察から始まる自分の思想の一大転換を《さらばわれら何をなすべきかTak chto zhe nam delat’》に書いた。これは86年に脱稿される。トルストイは,人類の歴史上,最新の,第三の奴隷制度である金銭による国家への隷属状態を批判し,都市,金銭,国家の否定に立つ,愛と勤労と奉仕の理想世界の実現を説いた。人々の悔いあらためを促し,この世を救う力は女性,母性にあるというのが彼の結論であった。トルストイのこの現実否定の強さは彼のその後の生涯を通じて多くの人々に衝撃を与えつづけていく。

 1880年代の終りに,チェルヌイシェフスキーの小説を読んで革命家の道に入ることを決断したレーニンは,1902年自らの革命思想の結実を世に問い,《何をなすべきか》と題した。これは革命家にとって,意識性,自己認識,自己反省,理論が大事であり,職業的に献身する者たちの集権的秘密結社が必要であることを主張した本である。ここにいたって倫理的な問いは高度に政治的な問いともなったのである。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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