アメリカの経済学者J・K・ガルブレイスが豊かな社会の経済的特質を説明する際に用いたことば。従来、資本主義経済における生産過程は、消費者の欲するものをつくるという点に社会的意義があるものとされた。このプロセスが一貫していれば、消費者の欲求が生産に反映することになり、消費者主権が成立する。しかし、人間の欲望には、他人はどうであれ自分はそれが欲しいという自立的、絶対的な欲望と、それを所有していれば社会的に評価されるためにそれが欲しいという相対的な欲望とがある。生産水準、したがって所得水準が上昇するにつれ、後者の欲望が大きくなり、かつ、そうした価値観が一般的になるほど消費意欲は増大するであろう。この過程は、所得水準が上昇しても消費性向がかならずしも低下しないことを説明する一方、近代的な寡占企業の宣伝、広告、販売技術によって助長されていることも明らかである。すなわち、自立的に決定された欲望とは別に、それまで存在しなかった新しい欲望が、主として生産者によって創出されることになる。
かくて、社会が富裕になるにつれ、欲望を満足させる過程が同時に欲望を創出していく度合いはしだいに大きくなる。つまり、生産者が財貨の生産と同時に、宣伝・販売術によって新しい欲望を創出させ、かつそれを善とする価値観をつくりだすという二つの機能をもつことになる。このように欲望が生産に依存し、欲望を満足させる過程に依存することを、ガルブレイスは依存効果とよんで、消費者主権が失われていることを指摘した。
[一杉哲也]
『J・K・ガルブレイス著、鈴木哲太郎訳『ゆたかな社会』(2006・岩波現代文庫)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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