野菜や花などを普通よりも早く生産するための栽培法。早出しの程度によって,促成栽培,半促成栽培,早熟栽培に分けることもある。この場合の促成栽培とは全生育期間をハウス内で栽培することをいい,半促成とは生育の後半にハウスの被覆をとって露地で栽培することをいう。また,早熟栽培とは温床で育苗した苗を畑に定植して露地で栽培することをいう(定植後しばらくトンネルで保温するものも早熟栽培に含める)。このように,促成栽培ではハウス,トンネル,温床などを利用し,生育に好適な温度条件を与えて収穫期を早めるのが普通である。しかしながら,フリージア,チューリップ,テッポウユリなどの秋植えの球根植物やミヤコワスレ,スズラン,シャクヤクなどの宿根草では,一定期間低温にあてて休眠を打破したり,花芽の発達を促進してからでないと,ハウスに入れても正常に開花しない。促成栽培を行う作物は,露地栽培の期間が短く,季節はずれには高値で取引される野菜(果菜類)や花である。
日本における野菜の促成栽培は,17世紀の初めに静岡県の三保(静岡市)で始まったといわれている。また,江戸近郊では18世紀末に砂村(江東区)でごみを利用した温床を作り,季節に先立って(4~5月),ナス,キュウリ,インゲンマメなどを出荷したが,生産されたナスは親指大程度のものであった。良品を生産できるようになったのは,ヨーロッパからガラス障子の温床が輸入された1890年ころからのことである。1920年代に入ると交通機関が発達し,産地は都市近郊から暖地の高知県,宮崎県へと移動した。また,兵庫県,愛知県,大阪府などの都市近郊では花の促成栽培も始まった。53年に塩化ビニル,55年にポリエチレンフィルムがハウスやトンネルに利用されるようになってからは,冬温暖な地帯だけでなく,関東,関西地方でも促成栽培が行われている。
執筆者:杉山 信男
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野菜や花卉(かき)などの栽培方法(作型)の一つ。普通の栽培時期よりも早く栽培を開始し、早く収穫して出荷することを目的とする。旬(しゅん)より早いので有利に取引され収入が多く得られるためである。播種(はしゅ)期が自然より早いので、加温あるいは保温した苗床に播種して育苗し、温室、ガラス室、ビニルハウス、ビニルトンネルなどの保温施設に定植し、その施設内で収穫まで育てる。生育の途中で被覆を除いて露地状態で育てる場合を半促成栽培といい、普通の促成栽培より収穫・出荷期がやや遅くなる。
促成栽培は日本ではすでに江戸時代から始められたといわれるが、本格的には近年になって発達した。ウドなどを旬より早く出荷するための促成栽培は早くから行われ、またイチゴの促成栽培も歴史が古い。現在では周年栽培の一環として、出荷期を定めた計画的な促成栽培が、キュウリ、メロン、カボチャ、スイカ、トマト、ナス、ピーマン、インゲンマメ、エンドウ、ホウレンソウ、シュンギクなどきわめて多くの野菜やシクラメンなど花卉類について、各地で行われている。促成栽培にとっては、冬季に晴天が多く温暖な地域、すなわち東海道、四国、南九州などの太平洋岸が適するが、とくに大都市や温泉場など消費地の近郊地帯が地の利を得て早くから促成栽培が行われた。いまでは交通機関の発達により消費地に遠い土地にも普及し、それらは集団的な促成園芸地帯を形成していることが多い。
[星川清親]
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