翻訳|cyclamen
サクラソウ科(APG分類:サクラソウ科)の球根草。葉の上に咲く花がかがり火に似ているところから和名をカガリビバナともいう。ギリシア、シリアからヨーロッパ中南部に十数種が自生し、いずれも地下に塊茎がある。このうち、代表種のパーシカム種がヨーロッパに入ってドイツ、オランダなどで品種改良され、多数の系統、品種が生まれている。日本には明治末期に渡来した。ヨーロッパではほぼ周年出回っているが、日本では年末から春にかけての鉢物として生産され、鉢花のなかでは生産量はトップを占めている。花色には赤、桃、藤、白色などがあり、花形も普通の平弁のほか、波状弁の品種や八重咲きなどがある。日本では最初、赤色品種が主体であったが、近年は桃、白など明るい色が好まれ、ごく最近では中間色に近いものが主流になっている。ここ数年、生育旺盛(おうせい)で花がよくそろう一代雑種(F1)品種も育成され、広まっている。また、全体に小柄なミニシクラメンの品種も育成されている。
[鶴島久男 2021年3月22日]
温室かビニルハウス内で育てるが、播種(はしゅ)から開花まで15か月かかる。10月上旬に播種し、翌春から夏にかけ、小鉢からしだいに大鉢に植え替えて育てる。一般には年末に出荷される。冷涼な気候を好み、10~15℃が適温なので、夏季は日よけをし、なるべく涼しい環境で育てる。このため一部では、夏だけ高冷地に移して栽培する高冷地育苗も行われている。用土は排水のよい材料を用い、乾かさないようきめの細かい管理が必要である。また、球根の萎凋(いちょう)病、葉腐(はぐされ)細菌病、灰色かび病が出やすく、この防除にも十分気をつけなければならない。
[鶴島久男 2021年3月22日]
古代ギリシアでは薬草として扱われた。ディオスコリデスの『薬物誌』(1世紀)では、ショウガやコショウとともに刺激性のある薬草類に分類され、ヘビの咬(か)み傷、脱毛、しもやけ、通経などの薬としてあげられている。シクラメンの花の品種改良は、アメリカで実生(みしょう)繁殖が確立された1870年から進められたが、普及するのは第二次世界大戦後で、日本では昭和40年代以降である。シクラメンはギリシア語のkyklos「回転」から派生した語で、野生種の花茎が花後に螺旋(らせん)状に回ることによる。
[湯浅浩史 2021年3月22日]
塊茎を有するサクラソウ科の球根植物。和名はカガリビバナ(篝火花)。かつては英名を直訳して,ブタノマンジュウともいわれた。シリアからギリシア原産で,18世紀にヨーロッパへ紹介されてから温室草花としての改良が進み,19世紀末ごろより今日見られる大輪系の品種が生まれた。基部に扁球状の塊茎があり,長柄のある心臓形葉を根生する。葉面には銀白色の模様がある。秋より春へかけて,塊茎から群がり立つ高さ15~20cmの花茎上に,5裂し裂片が反転する花を単生する。花色は赤,桃,白,赤紫,藤桃など多彩である。大輪系には平弁のペルシクムPersicum系,ちぢみ弁のフリンジFringe系,八重咲系などがあり,近年,小輪多花性のマルチフローラMultiflora系も多く栽培される。
シクラメン属Cyclamenは小アジアより地中海沿岸地方,ヨーロッパ中部にかけ約20種ほどが分布し,園芸的にはペルシクム種の改良種のほか,C.neapolitanum Ten.,C.coum Mill.,C.atkinsii Mooreなどが栽培される。多くは温室鉢物として利用され,9月に種子をまき,本葉1枚で移植して育苗し,春に鉢上げし,順次鉢替えをして育成すれば,播種(はしゆ)翌年の11月ころより開花を始める。冬は温暖多雨,夏は高温乾燥した地中海気候域で適応分化した植物なので,晩春,開花後は乾燥休眠させるとよい。リン酸分の多い肥料を施す。耐寒力はかなりあるが,冬期は3℃以上を保つようにする。しかし,あまり暖房の効いている所はよくない。もっぱら冬に楽しむ温室鉢花として観賞され,花期が長いのが特徴である。
執筆者:柳 宗民
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