ホウレンソウ(読み)ほうれんそう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ホウレンソウ」の意味・わかりやすい解説

ホウレンソウ
ほうれんそう / 菠薐草
[学] Spinacia oleracea L.

アカザ科(APG分類:ヒユ科)の二年草。葉菜として畑に栽培される。初めは茎は伸びず、根生葉を多く出して茂り、越冬して翌春に茎が伸びて高さ30~70センチメートルになり、茎の上部で枝を分かち、花をつける。雌雄異株雌花葉腋(ようえき)に3~5個ずつ集まってつき、子房には4本の花柱がある。雄花は穂状あるいは円錐(えんすい)花序につき、萼(がく)は4枚、雄しべは4本。果実は宿存花被(かひ)が発達して硬くなった偽果で、径約4ミリメートル、両側部が突起して小さなヒシの実形となり、中に一つの種子がある。根は直根で淡赤色。

[星川清親 2021年2月17日]

起源と伝播

ホウレンソウの野生祖先種はカフカスからイランの北西部にわたる地域に自生するが、イラン(ペルシア地域)が起源地で、そこで栽培された。その後、イスラム教徒によって東西に伝播(でんぱ)した。西へは、11世紀までにスペインに、14世紀にイギリス、16世紀にはフランスほか全域に伝播した。アフリカには、アラビアを経て地中海岸地域に伝播した。アメリカには1806年以後にヨーロッパから入った。

 東へは、シルク・ロードを経て漢の時代に中国に伝播し、ペルシア(菠薐(ほうれん)国)から入ったので、菠薐草の名がついたという。しかし、10世紀ころの『唐会要』には、唐の太宗の647年にネパールから献じられたことが記述されており、実際には7世紀ころ唐の時代に渡来したものであろう。その後中国各地に普及し、とくに華北で盛んに栽培されるようになった。こうして西洋種(西洋ホウレンソウ)と東洋種(日本でいう在来種、つまり日本ホウレンソウ)が成立した。日本には『多識篇(たしきへん)』(1612)に「唐菜(からな)」の名で載るのが最初で、それによると、16世紀ころ東洋種が中国から渡来したことになる。一方、西洋種は文久(ぶんきゅう)年間(1861~1864)にフランスから導入されたのが最初で、その後、アメリカから明治初年に再導入された。しかし、西洋種は日本人の嗜好(しこう)にあわず、その当時は普及しなかった。

[田中正武 2021年2月17日]

栽培

日本ホウレンソウと西洋ホウレンソウそれぞれの特性を生かした栽培が行われている。日本ホウレンソウは、葉は薄く、切れ込みが大きく、根元が赤い。味がよいが、春のとう立ちが早いので、秋播(あきま)き・冬取り用に栽培される。一方、西洋ホウレンソウは葉は厚く、縮れ、全縁で、根元の赤みが少なく、種子は刺(とげ)が少ない。多収でとう立ちが遅いので、初冬または早春播きで春から初夏に収穫する。ほかに、暑さに強く夏取り用の台湾種とよぶ系統もある。最近はこれらの系統間の一代雑種(F1)の品種が栽培されている。

 ホウレンソウは酸性土で生育が悪い特性があり、火山灰性酸性土の日本では石灰により土壌を中和して栽培する必要がある。最近はビニルハウスなど施設園芸により、一代雑種(F1)品種を用いて、周年栽培・供給されている。

[星川清親 2021年2月17日]

食品

ホウレンソウはもっとも親しまれている葉菜の一つで、繊維が少なく、舌ざわりが好まれる。栄養価は、100グラム中、水分90.4グラム、タンパク質3.3グラム、脂質0.2グラム、糖質3.6グラム、灰分1.7グラム。無機質ではカルシウム55ミリグラム、リン60ミリグラム、カリウム740ミリグラムなどが多い。ビタミンではAがカロチン3100マイクログラム、A効力1700IUときわめて高く、B1、B2、Cなども豊富に含まれる。とくにタンパク質はトリプトファン、シスチンなどを多く含み栄養的に優れており、幼児食、病人食などに適している。しかし細胞内にシュウ酸が多く含まれ、これは有害なので、十分な水でよくゆでて、水にさらすなどしてシュウ酸を除く心得が望ましい。料理はおひたし、和(あ)え物、椀種(わんだね)など和風料理にも、バター炒(いた)め、クリーム和え、裏漉(うらご)ししてスープに入れるなど洋風料理にも広く利用される。

[星川清親 2021年2月17日]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ホウレンソウ」の意味・わかりやすい解説

ホウレンソウ(菠薐草)
ホウレンソウ
Spinacia oleracea L.; spinach

ヒユ科の一年草または越年草。アジア西部原産で野菜として広く栽培され,日本には古い時代に中国から伝えられた。根はやわらかく無毛で,主根はまっすぐに伸び,淡紅色をした肉質である。茎は中空で直立し,単一またはわずかに分枝する。根出葉は長い柄のある長卵形で下部は羽裂する。上部の茎葉は披針形。春に,穂状または円錐花序をなして黄緑色の花弁のない花を多数つける。雌雄異株で,雌花は葉腋に 3~5個集まってつき,雄花は枝先につく。雌花,雄花とも花弁はなく,小さな萼片が 4個あり,雄花では 4本のおしべが目立つ。若い葉は冬の重要な緑黄色野菜とされ,ビタミンAとビタミンCの含有量が多い。また便秘症の薬にもされる。種々の品種があり,西洋種もかなり広く栽培されている。

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