チューリップ(読み)ちゅーりっぷ(英語表記)tulip

翻訳|tulip

日本大百科全書(ニッポニカ) 「チューリップ」の意味・わかりやすい解説

チューリップ
ちゅーりっぷ
tulip
[学] Tulipa gesneriana L.

ユリ科(APG分類:ユリ科)チューリップ属の秋植え球根草。小アジア原産。

形態

球根は鱗茎(りんけい)。タマネギのように鱗片が4、5枚重なっている。鱗片は、デンプン質を多く含み、質は堅い。球根の外側は褐色の鱗皮で覆われる。球根の中心には次代に伸長するノーズとよばれる芽がある。この芽は翌春に花をつける花芽で、秋のうちに球根の内部で形成される。葉は数枚つき、幅広い線形で、縁(へり)が波打つものもある。茎は単生し、開花までは直立して伸びる。花は杯(さかずき)状で、普通は1個を頂生するが、2~3個枝先につけるものもある。花弁は6枚で一重咲き、八重咲きが一般的であるが、花弁が細かく切れ込むフリンジ咲き、花弁全体がよじれて狂い咲きになるパーロット咲きもある。花色は豊富で、花弁に斑点(はんてん)が入るものや、花弁の縁が異色となる覆輪のものも多い。雄しべは6本で花弁より短い。

[岩井英明 2018年12月13日]

品種・栽培史

現在栽培されている品種のほとんどは、トルコで改良されたものが16世紀にヨーロッパに紹介され、オランダを中心に改良されたものである。きわめて多くの品種があり、1982年のオランダの品種リストには約3000種があげられている。世界的にはオランダが栽培の中心で、原球の生産・輸出のほか、切り花の輸出も多い。

 日本への導入は、江戸末期の文久(ぶんきゅう)年間(1861~1864)とされ、当時は鬱金香(うっこんこう)とよばれた。その後、わずかに家庭で栽培される程度であったが、本格的な球根生産が行われたのは1919年(大正8)になってからで、新潟が初めである。その後富山、京都などで生産された。第二次世界大戦で生産が減少したが、戦後、新潟、富山を中心に島根、兵庫、鳥取など日本海沿岸の各県で生産が盛んになり、さらに茨城、埼玉、徳島などに広まった。しかし最近は生産量が徐々に減っており、2005年(平成17)の球根生産は5350万球、球根切り花生産は7200万本で、5年前の2000年の生産量と比べるとそれぞれ4000万球、1800万本の減少となっている。現在、市販されている主要品種は約350品種に上っているが、原球はオランダから輸入したものが多い。

[岩井英明]

系統・品種

開花期、花形、草姿などによって4グループ15系統に分類されている。

〔1〕早生(わせ)種
(1)早咲き一重咲き系 Single Early (S.E) 草丈は低く、葉は小形。花弁のとがったものが多い。開花期は3月下旬~4月上旬。草丈30センチメートル。花壇、鉢植え用。おもな品種はキャシニー(紅)、カイザースクルーン(赤に緑黄)、クリスマスマーベル(桃)、ガルウェイ(朱赤)、ベロナ(黄)。

(2)早咲き八重咲き系 Double Early (D.E) 草姿は一重に似るが、花は花弁が多く、豪華。花色が豊富。開花期は3月下旬~4月上旬。草丈30センチメートル。花壇、鉢植え用。おもな品種はストックホルム(赤)、モンテカルロ(黄)、ピーチブロッサム(桃)。

〔2〕中生種
(1)トライアンフ系 Triumph (T) 早咲き一重種と晩生(おくて)種との交雑種。花色が豊富。開花期は4月上旬~下旬。草丈60~70センチメートル。花壇、切り花、鉢植え用。おもな品種はオラフ(赤)、パープルスター(桃藤)、タンバーメーター(紅)、ゴールドメロディー(黄)、メリーウィドーレコード(赤に白覆輪)、アスリート(白)、モザート(白に桃覆輪)。

(2)ダーウィンハイブリッド系 Darwin Hybrid (D.H.) 晩生のダーウィン種と原種のフォステリアーナ系との交雑による種間雑種。花、葉は大形。開花期は4月上旬~下旬。草丈60~70センチメートル。花壇、切り花用。おもな品種はオックスフォード(赤)、ゴールデンオックスフォード(黄)、アッペルドーン(緋赤(ひせき))、レッドマタドール(緋赤)、エンパイアステート(緋赤)
〔3〕晩生種
(1)晩生一重咲き系 Single Late (S.L) ダーウィン系、コッテージ系などで、大輪で花色が豊富。促成切り花。栽培向きの品種が多い。開花期は4月下旬~5月上旬。草丈60~70センチメートル。花壇、切り花、鉢植え用。おもな品種はマルタ(レッドクイン)(紅)、ピンクシュプリーム(桃)、クインオブザナイト(黒紫)、ママサ(黄)、ゴールデンハーベスト(黄)、アルビノ(白)。

(2)ユリ咲き系 Lily-flowered (L) 花弁が細長くとがり、花形はユリ状。開花期は4月下旬~5月上旬。草丈40~50センチメートル。花壇、切り花用。おもな品種はチャイナピンク(桃)、アラジン(赤に淡黄覆輪)、ウエストポイント(黄)。

(3)フリンジ系 Fringe (Fr) 花弁周縁に細かい切れ込みが入る。大輪。突然変異による品種。開花期は4月下旬~5月上旬。草丈60~70センチメートル。花壇、切り花用。おもな品種はカノーバ(紫)、エステロン(赤)、ベルフラワー(桃)。

(4)ビリディフローラ系 Viridiflora (V) 花弁に緑色の鮮明な縦縞(たてじま)模様が入る。大輪。開花期は4月下旬~5月上旬。草丈60~70センチメートル。花壇、切り花用。おもな品種はスプリンググリーン(白に緑の縦縞)、グリーンランド(緑に桃の覆輪)。

(5)パーロット系 Parrot (P) 一重咲きの系統からの突然変異種。花弁に細かい切り込みが入る。開花期は4月下旬~5月上旬。草丈60~70センチメートル。花壇、切り花用。おもな品種はブラックパーロット(黒紫)、オレンジフェボリット(橙赤(とうせき))、フレーミングパーロット(乳白に紅)。

(6)レンブラント系 Rembrandt (R) 花色が白や黄の地に赤茶の絞り模様が入る。開花期は4月下旬~5月上旬。草丈60~70センチメートル。花壇、切り花用。おもな品種はアメリカンフラッグ(白と紅のモザイク状縞)。

(7)晩生八重咲き系 Double Late (D.L) 花弁が多く、ボタン咲きチューリップともよばれる。開花期は4月下旬~5月上旬。草丈60~70センチメートル。花壇、切り花用。おもな品種はメイワンダー(白に桃覆輪)、マウントタコマ(白)、アンジェリケ(桃)。

〔4〕原種
(1)カウフマニアーナ系 Kaufmanniana (K) 開花期が早く、ごく早生咲き。覆輪の品種が多い。開花期は3月下旬~4月上旬。草丈20センチメートル。花壇、鉢植え用。おもな品種はストレサ(紅に黄覆輪)、グルック(赤に淡黄覆輪)。

(2)フォステリアーナ系 Fosteriana (F) 早生種。花は大輪。性状は強健で栽培しやすい。開花期は4月上旬~下旬。草丈20~40センチメートル。花壇、鉢植え用。おもな品種はレッドエンペラー(緋赤)、ゾンビ(乳白に紅)、ピュリシマ(白)。

(3)グレイギー系 Greigii (G) 早生種。葉に紫褐色の虎斑(とらふ)が入る。開花期は4月中旬~下旬。草丈20~60センチメートル。花壇、鉢植え用。おもな品種はオリエンタルビューティ(紅)、レッドライディングフッド(緋紅)。

(4)その他の原種 ミニチュアチューリップとして性状が強く、栽培しやすい。開花期は4月上旬~下旬。草丈10~20センチメートル。鉢植え、花壇、ロック・ガーデン用。おもな品種はタルダ(黄に白)、プラエスタンス(枝咲き、紅)、クリシアナ(白に桃)、サクサティリス(淡紫桃)、クリサンサ(黄に紅)。

[岩井英明]

栽培

排水のよい、乾燥しない、日当りのよい場所でよく育つ。10~11月に球根を植え付ける。発芽は3月中旬で、4月に入ると急に花茎が伸び、中・下旬に開花する。連作するとウイルス病にかかりやすいので、同一場所で栽培する場合は、翌年は別の植物を植えるようにする。

[岩井英明 2018年12月13日]

露地(花壇)植え

株間10~15センチメートル、球根の高さの2~3倍の深さで植え付ける。土壌は軽い砂壌土がよい。肥料は窒素過多にならないよう腐熟堆肥(たいひ)、遅効性肥料を元肥に施す。発芽後に1、2回液肥を施す。開花前後に殺菌剤を散布する。開花後、葉を残して花だけを摘除して結実を防ぐ。切り花にするときは、葉を2枚残して切る。6月ころ、葉が3分の2くらい黄変したころに掘り上げ、風通しのよい所で貯蔵する。

[岩井英明 2018年12月13日]

鉢植え・プランター植え

草丈の低い早生(わせ)種、中生種や原種チューリップが適している。用土は、畑土に腐熟堆肥あるいはピートモスを3分の1とし、石灰を少量加えて混合した排水のよい土を用いる。5号鉢では3~5球、6号鉢では5~7球植えとし、プランター植えでは8センチメートル四方に1球の割合で植える。植え込みの深さは球根の先がわずかに出る程度の浅植えとする。植え付け後は十分に灌水(かんすい)する。

 球根を掘り上げない場合は、冬季は乾燥しすぎないように管理する。鉢植えでは鉢を室内に移すが、鉢ごと排水のよい所に埋める方法もある。また、プランター植えでは、藁(わら)かピートモスで根元を覆うとよい。

[岩井英明 2018年12月13日]

病害虫

害虫は少ないが、アブラムシはウイルス病を伝播(でんぱ)するので、「マラソン」や「スミチオン」で防除する。病気にはウイルス病のほか褐色斑点病、球根腐敗病、芽枯(めがれ)病などがある。これには「キャプタン」や「マンネブ剤」を散布する。

[岩井英明 2018年12月13日]

文化史

チューリップが美の対象とされた歴史は古く、紀元前4~前3世紀の黒海沿岸の織物や漢の絹織物にチューリップ模様がみられる。栽培はトルコで始まり、とがった花弁をもつユリ咲きタイプのチューリップが愛培され、宮廷の花ともなっていた。ヨーロッパへは1554年、オスマン・トルコのハンガリー侵略に際し、神聖ローマ帝国が派遣した和平の使者ド・ブスベックAgier Ghislain de Busbecq(1522―1592)がもたらした。オランダへはウィーンの王室薬園から1593年カロルス・クルシウスCarolus Clusius(1526―1609)が伝え、17世紀初めには船でイスラム圏からオランダに大量に運ばれて大衆化し、新品種作成のブームがおこった。その状況はデュマ・ペール作『黒いチューリップ』に詳しい。珍しい品種や誕生もしない前の新品種が先物取引で投機の対象になり、実在する球根の数以上の売買が行われ、1634年から狂乱状態となった。一時は球根一つと12エーカーの土地とが交換されたり、1万フローリン(約1万ドル)で取引されたりした。3年後に暴落が始まると、一挙にチューリップ相場は崩壊した。同様に、原産地の一つのトルコでも、オランダからの品種が逆輸入され、18世紀のアフメト3世の時代にブームが到来し、トルコのチューリップ時代(1718~1730)とよばれる。日本には幕末に一度渡来し、中国名の鬱金香(うっこんこう)が与えられたが、定着しなかった。チューリップの名は、トルコ語でターバンを意味するツリパムtulipamから由来した。これは花形が似ることからド・ブスベックが聞き違えた名で、当時トルコではチューリップをラーレlaléとよんでいた。新潟県と富山県の県花で、トルコ、アフガニスタン、オランダの国花である。

[湯浅浩史 2018年12月13日]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「チューリップ」の意味・わかりやすい解説

チューリップ
Tulipa gesneriana; tulip

ユリ科の多年草。西アジアの原産とされトルコ地方で古くから栽培された。のちにヨーロッパに渡り主としてオランダで多数の品種が作出された。日本では富山,新潟の砂丘地帯などで輸出用の球根が育成されている。花壇に植込んだり,鉢植にしたりまた切り花にして観賞する。鱗茎は円錐状卵形で,赤褐色の薄い皮でおおわれる。春,鱗茎より2~3枚の葉とともに円柱状の花茎を伸ばし,頂端に1個の美花を開く。花は上向きに開き,広い鐘形,6枚の花被片はほぼ同型で卵形または広披針形,品種により赤,黄,紫などさまざまな色を示す。品種はきわめて多く,なかでもダーウィン種は,花茎が長く,また花の形もよいので切り花に最適とされている。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報