改訂新版 世界大百科事典 「個体識別法」の意味・わかりやすい解説
個体識別法 (こたいしきべつほう)
individual identification method
動物行動学,生態学,動物社会学において,個体群動態や社会構造などの研究のために動物のある同一種の中の個々を識別する方法。日本における野生ニホンザルの研究に導入されて多くの成果をあげたが,今西錦司が1947-48年に宮崎県都井岬で行った半野生馬の研究に端を発する。今日,個体識別法は,この種の野外研究には不可欠な方法とされるに至ったが,個体を,性,年齢,順位などによって表すにとどまらず,血縁関係のうえに位置づけ,長期にわたる観察を可能にした点にとくに重要な意義がある。個体識別に基づく長期観察を可能にする手段として,餌づけが用いられることがある。野生のニホンザルやチンパンジーの研究はこの方法に支えられながら進められてきた。
霊長類の個体識別は,顔の形態的・相貌(そうぼう)的特徴をよりどころにして識別が行われているが,対象個体が多い場合,そして一時的な捕獲が可能な場合には,顔や胸などに入墨をほどこす場合もある。大型獣では,きばや耳などの欠損(ゾウ),毛皮の模様のパターン(シカ,シマウマ),角の形状(シカ,アンテロープ)などを識別の手がかりにする。また,テレメーターの発信器を取り付け,その特定の電波の波長に頼ることもある。
ネズミなどの小動物では,四肢の指を切断し,その欠損指の組合せによるのがふつうで,これは標識再捕獲法による個体数推定などに用いられる。短期日の識別のためには,尾やわき腹の毛をそったり,染料を用いる場合もある。鳥類では,脚にカラーリングや金属リングをはめ(バンディングbanding),社会関係や渡り鳥の調査を行う。魚では,ひれにビニルを取り付けることがある。昆虫などでは,胸部に番号札をはりつけたり(ハチ),カラーペイントなどの塗料を用いて胸部(ハチ),翅(トンボ,甲虫)にマークをほどこすなど,さまざまな方法がとられている。
→標識法
執筆者:伊谷 純一郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報