チンパンジー(読み)ちんぱんじー(英語表記)chimpanzee

翻訳|chimpanzee

日本大百科全書(ニッポニカ) 「チンパンジー」の意味・わかりやすい解説

チンパンジー
ちんぱんじー
chimpanzee
[学] Pan troglodytes

哺乳(ほにゅう)綱霊長目ショウジョウ科の動物。クロショウジョウ(黒猩々)ともいい、ボノボゴリラとともに、アフリカの大形類人猿African great apesの一員である。

伊谷純一郎

分布

アフリカ大陸の赤道を北西から南東にたすき掛けにするような分布を示す。北限は、セネガルの北緯15度、南限はコンゴ民主共和国(旧、ザイール)、タンガニーカ湖畔の南緯7度30分、東限はタンザニア、ウガラ川左岸の東経31度30分である。分布域は、低地熱帯多雨林、山地林、乾燥疎開林を含み、ゴリラに比べてより乾燥した植生にも生息しているが、サバナへは進出していない。セネガルからニジェール川右岸にまで分布するニシチンパンジーP. t. verus、ニジェール川左岸からコンゴ(ザイール)川右岸、サンガ川右岸の多雨林帯に分布するチェゴチンパンジーP. t. troglodytes、ウバンギ川以東、ウガンダ西部、タンザニア西部にまで分布するケナガチンパンジーP. t. schweinfurthiiの3亜種に分けられている。

[伊谷純一郎]

形態

体重は、雄が40キログラム、なかには50キログラムに達するものがあるが、雌は平均35キログラムで、ゴリラほど性差は顕著でない。スイスの人類学者シュルツAdolf Schultzは、雄100に対する雌の体重比を92.1としている。身長は、雄が150センチメートル、雌は130センチメートルである。全身黒色の毛に覆われるが、3歳までの子には肛門(こうもん)の上に白い毛があり、これは成長とともに消失する。顔は裸出し、その皮膚は子は明色であるがしだいに暗色または黒色になる。個体によっては成長しても飴(あめ)色のものもある。ゴリラに比べて耳殻が大きい。眉(まゆ)の上の隆起はゴリラともども顕著である。ケナガチンパンジーは、雌雄ともに前額部がはげる個体が多い。歯数はヒトと同じ32本であるが、雄は強大な犬歯をもち、歯隙(しげき)が目だつ。下肢に対して前肢が長く、手の指の中節背面地面につけて、いわゆるナックル・ウォークを行う。四足歩行時の体軸はオナガザルのように地面に水平ではなく、斜めになる。雄の頭蓋(とうがい)内容量は約400ccで、小形類人猿であるテナガザルの100ccに比べて格段の開きがある。性的成熟までには、雌は約8年、雄は約10年を要する。野生のものの寿命については十分な資料はないが、40年以上生きると考えてよいであろう。老齢個体のなかには、腰から背面にかけての毛が白くなるものもある。

[伊谷純一郎]

生態

地上・樹上で活動するが、移動時は地上歩行によることが多く、夜間は樹上に木の枝を折り曲げてつくったベッドの上で眠る。食物は果実を主とするが、葉、茎、樹皮、花なども食べ、そのほかサルレイヨウ、ノブタ、リスなどのあらゆる哺乳動物を捕食し、鳥の雛(ひな)や卵、アリ、シロアリなどの昆虫類も好んで食べる雑食性である。また、アリ、シロアリなどの捕食、樹洞に蓄えられた蜂蜜(はちみつ)の採食には、木の枝やつるなどの道具を用いる。西アフリカでは、アブラヤシの実を石でたたき割って食べたという観察もある。これらの道具使用行動には地域による技法の違いが認められ、各地域集団によって伝承される文化的行動であることが明らかにされている。食物の分配行動がみられることも行動の進化を考察するうえで重要な意義をもつ。

[伊谷純一郎]

社会

平均40頭、20頭から80頭の複雄複雌の集団をつくって生活する。集団の遊動域は生息環境によって異なるが、常緑林では20~40平方キロメートル、疎開林では100~500平方キロメートル以上に達する。通常その約30%を隣接集団の遊動域と重複させているが、集団間には相いれない対立があり、また集団間の優劣が認められる。ニホンザルなどのような凝集性のある集団をつくることなく、絶えず離合集散を繰り返すが、集団内の雄の間には強い結合が認められる。性的成熟を迎えた雌は、自発的に、生まれ育った出自集団を去って隣接集団に加入し、そこで子を産み育てる。すなわち、チンパンジーの社会は、集団間で雌を交換する父系社会であるといってよい。初産年齢は10歳前後、1産1子で、出産間隔は約5年である。発情した雌の性皮は著しい腫脹(しゅちょう)をみせる。雌間に社会的交渉が乏しいのもこの社会の特色である。タンザニアのゴンベ、マハレで長期にわたる観察が続けられている。

[伊谷純一郎]

『ジェーン・グドール著、河合雅雄訳『森の隣人』(1973・平凡社)』『伊谷純一郎編著『チンパンジー記』(1977・講談社)』『西田利貞著『野生チンパンジー観察記』(1981・中央公論社)』


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「チンパンジー」の意味・わかりやすい解説

チンパンジー
Pan troglodytes; chimpanzee

霊長目ヒト科。頭胴長は雄 80~90cm,雌 70~80cm。立上がると身長 1.5mをこえる。体重は野生の状態で 30~50kg,動物園では 60~80kgになることもある。ゴリラ,オランウータンと並ぶ大型のサルであるが,この3種のなかでは最も小さい。耳が大きく,額はひさし状に突き出している。手は長く,立ったとき膝まで達する。歩くときは手を握り,指の第2関節を地面につける「ナックルウォーク」を行う。数頭から 20頭ぐらいの小群で行動し,リーダー格がこれを率いているといわれる。緊張をやわらげるための挨拶行動を頻繁に行う。昼間活動性で,樹上に小枝を用いて巣をつくり,夜はそこで寝る。雑食性で,植物質はもとより昆虫,小型哺乳類などを捕えて肉食もする。知能程度が高く,道具を使うことも知られていて,訓練するといろいろな芸を覚える。月経周期は約 32日,妊娠期間は約 228日。普通1産1子である。アフリカ中央部から西アフリカに分布する。同属別種にボノボ (ピグミーチンパンジー) P. paniscusがいる。

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