標識法(読み)ひょうしきほう(英語表記)marking method
banding method

改訂新版 世界大百科事典 「標識法」の意味・わかりやすい解説

標識法 (ひょうしきほう)
marking method
banding method

生態や行動の研究のために動物の個体目印をつけて識別する方法。動物の個体数や生態を調べるためには,一匹一匹の個体を識別することが不可欠である。ニホンザルのような大型の動物の場合には,その肉体的特徴によって個体識別することができるが,小さい昆虫や鳥や魚のように動きまわるものは,なんらかの目印をつけなければ識別が不可能である。昆虫などでは主として彩色によって,魚や哺乳類あるいは昆虫の中でも甲虫類などでは体の一部に傷をつけて標識する。しかし最も一般に用いられるのは魚類におけるタグtagと鳥類における足輪(リング)ringである。以下鳥類の標識を中心にその概要を述べる。

渡り鳥で最初に科学的な標識法をとり入れたのは,デンマークのモルテンセンH.C.C.Mortensenで,彼は番号と住所の入った足輪を鳥につけて放した。その後アメリカのJ.J.オーデュボンも同様の方法を用い,繁殖地で標識を行い,はじめてエントツアマツバメの越冬地を明らかにした。アメリカでは現在およそ100万羽が年間に標識され,それらのうち4~5%が回収されているという。日本では農商務省が1924年から本格的に標識研究を始め,現在は環境庁が山階鳥類研究所標識研究室に委託して,全国の1級ステーション9ヵ所,2級ステーション45ヵ所で調査研究を行い,年間およそ8万羽に標識を行っている。

 足輪はアルミをはじめモネルメタルやインカロイなどの合金が使用され,標識は1羽ごとに放鳥データ(番号,種名,老幼性別,放鳥年月日,場所,生息環境,放鳥者など)を記録する。その後回収があった場合は,学校,県事務所,警察,県庁などの官公庁や山階鳥類研究所などを通じて報告する。なお標識研究のためにバンダーbander(標識者)の資格をとりたい人は,山階鳥類研究所標識研究室に申し込み,同所の主催する講習会および実地訓練を行わなければならない。また研究などで鳥の捕獲をする場合は,まず研究目的やその方法などを書き,所属長の推薦状を添えて管轄地の地方事務所か都道府県を通じて環境庁長官あて申請する。また終了後は直ちに同長官に報告するとともに許可証を返還しなければならない。

 なお個体識別にはプラスチックのカラーリングをつけるが,色の種類は少ないので組み合わせて取りつける。またハクチョウ類などのように大型の鳥の場合はプラスチックのバンドを首にはめるようになっている。さらに個体識別を遠距離からでも可能にするため,色素をスプレーで吹きつけることもある。カモ類にこの方法を実施して効果を上げた例もある。

 標識の意義としては,前述の移動コース,寿命を知るためのほか,鳥の帰還率,形態や分類学の基礎資料を得ることもでき,個体数の推定などの生態的調査をより正確にすることができる。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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