改訂新版 世界大百科事典 「個体選抜」の意味・わかりやすい解説
個体選抜 (こたいせんばつ)
individual selection
品種改良(育種)上の基本的な選抜操作の一つ。特性の異なった個体を含む作物の集団から,希望する特性をもつ個体を選び出すこと。作物では1株全体から採種したり,株そのものを選んで維持することを株選抜といい,1穂ごとに採種することを穂選抜という。どのような品種改良のやり方でも,どこかの過程で個体選抜は必要である。生物遺伝資源を求めて遠隔地へ行き,採種するときには個体(穂)選抜をしてくる。このときはいくつかの個体を採ることによって,生育群を代表するようなくふうをする必要がある。また林木育種では,自生地や栽培地へ行って一つの群から生育のよい精英樹を個体選抜する。この精英樹から,挿木やその他の方法によって個体増殖し,系統群を育てていく。自殖性作物の系統育種法では雑種第2代F2(雌雄の掛合せをしてから2代目)から個体選抜を行う。F2世代は雑種性が強く,個体がもつ遺伝質がまだ安定してなく,後代でさらに遺伝質の違う個体が分離してくる。そこでF2では不良個体を捨てるくらいがよいともいわれるが,実際にはきびしい選抜を行うことが多い。このときにはていねいな栽培をし,また選抜にあたっては専門家の眼力を必要とする。突然変異育種でも変異を起こす処理をしてから次の世代M1,またはその次の世代M2で個体選抜を行う。このとき,せっかくの突然変異を見のがさないくふうが必要である。突然変異がまれに起こる現象だからで,ときには100万個体から2~3個体を選ぶこともある。なお,ウシ,ブタなどの動物の選抜は,子孫の数が飛躍的に増えないので,個体選抜の繰返しになる。この場合は環境によって誤った選抜を犯す危険が高い。そこで,親子兄弟などの家系の記録を調べてその平均値に基づいて行う家系選抜を併用する必要がある。
執筆者:武田 元吉
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報