挿木(読み)サシキ

デジタル大辞泉 「挿木」の意味・読み・例文・類語

さし‐き【挿(し)木】

[名](スル)植物の枝や茎、葉を切り取って地中に挿し込み、根を出させて新株を得る方法。 春》「―して我に後なき思ひかな/虚子
[類語]接ぎ木

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精選版 日本国語大辞典 「挿木」の意味・読み・例文・類語

さし‐き【挿木】

  1. 〘 名詞 〙 果樹、花木などの枝、茎を切り取り、下端を土や砂などにさしこんで根を出させて、新株をつくること。また、その法。春挿し・夏挿し・秋挿しがある。《 季語・春 》
    1. [初出の実例]「つくと見しさし木の花のちりぬるは箱根うつ木の釘はなれかも」(出典:狂歌・吾吟我集(1649)二)
    2. 「つきたかと児のぬき見るさし木哉〈舟泉〉」(出典:俳諧・曠野(1689)二)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「挿木」の意味・わかりやすい解説

挿木
さしき

花木や草花などの茎(枝)や葉、根を切り取って土や砂などに挿し、新個体に再生させるもので、植物を殖やすときに用いる手法の一つである。キクやカーネーションダリアなどの草本植物では挿芽ということが多い。挿す部分を挿穂という。挿木は、無性繁殖(栄養繁殖)のため親(母樹)と同じ素質(遺伝質)をもった苗を多数得ることができることや、実生(みしょう)に比べて早期に開花・結実がみられること、増殖作業が簡単であるなどの特長を有するところから、広く利用されている繁殖方法である。ただ、すべての植物を挿木によって増殖できるわけではなく、植物体の再生力により、発根しやすいものと、しにくいものがある。そのほかの無性繁殖の方法には、取木、株分け、接木(つぎき)などがある。

 挿木が初めて行われるようになった年代を明確に知ることはむずかしいが、紀元前3000年ごろのギリシアでは挿木が行われたともいわれる。わが国では1681年(天和1)に出版された園芸書『花壇綱目』に「取木挿木に吉」との記載がみられるところから、このころにはすでに挿木の手法が活用されていたものと思われる。また日本各地には空海が諸国を巡りながら杖(つえ)や枝を挿したものがいろいろ伝えられているが、これも挿木の一種といえよう。

[堀 保男]

挿木の種類

挿穂として用いる植物の部位によって次のように分けられる。

〔1〕茎挿し(枝挿し) もっとも一般的なもの。普通、芽を2~4個つけた長さ10センチメートル前後の挿穂をつくる。茎の先端を挿穂としたものを天挿しとか頂芽(ちょうが)挿し、心挿しという。それより下の部分は管(くだ)挿しという。挿穂はかならず腋芽(わきめ)が必要で、欠けているものは挿穂としてよくない。また、生育中の枝を挿穂として挿木したものを緑枝(りょくし)挿し、落葉中の枝を挿木することを休眠挿しとよぶ。常緑樹では、一葉一芽をつけて挿木することを一芽(ひとめ)挿しという。これは一度に多数の挿穂ができるところから、観葉植物の増殖に利用されている。

〔2〕葉挿し 1枚の葉をそのまま挿す全葉挿し(イワヒバ、ストレプトカーパスなど)と、葉柄をつけて挿すもの、いくつかに切った葉片を挿すもの(裁断挿し。ベゴニアサンセベリアなど)がある。また、似た手法に球根の鱗片(りんぺん)繁殖法がある。これは、球根を縦にいくつかに割り、挿床に挿し、子球を出させるもので、アマリリスヒヤシンスなどで利用されている。

〔3〕根挿し 根の一部を切り取って挿穂とし、芽を出させる方法で、根伏せともいう。この方法は、管理に手数があまりかからないものや、数量を多くは必要としないものに利用される。アメリカデイコ(エリスリナ)、キリ、ニセアカシアのほか、草花ではニホンサクラソウの根伏せ繁殖によく用いられている。

 また、挿穂の挿し方には次のようなものがある。(1)垂直挿し 挿穂を垂直に挿す方法、(2)斜め挿し 挿穂をやや斜めに挿す方法、(3)水平挿し 挿穂を水平に埋めて挿す方法、(4)その他 つる性のものでは舟底挿し、草花類では粘土の団子で切り口を包む団子挿しの方法などがある。

[堀 保男]

発根の要因と発根促進処理

挿木による発根は、温度、湿度、日照などの外的要因に影響されるほか、挿穂の状態にも大きく左右される。貯蔵されている養分(炭水化物)の多い挿穂が発根を促す力が大きい。たとえばツバキなどの常緑樹の挿木では、日当りのよい上枝と悪い下枝では、発根開始に差ができる。生育途中の枝葉は養分の蓄積が不十分で萎凋(いちょう)が早く、成熟しすぎたものは老化し、発根が遅れる。

 挿穂は、通常10℃以下では発根作用が鈍り、地温が30℃以上では腐敗がおこりやすい。光を受けることは発根作用を促進させる。しかし、葉がある場合は、葉面の温度が高くなることで葉面蒸発が盛んになり枯死することもある。挿穂の発根を促すには用土の質が大きく関係する。用土は、保水性、通気性に優れていることと、腐敗菌に汚染されていないことが要求される。また、土壌酸度はpH5.5~6が好ましい。天然用土では、川砂、赤玉土、鹿沼土(かぬまつち)、ピートモス、ミズゴケ、人工用土ではパーライトバーミキュライトウレタン、クンタンなどがある。

[堀 保男]

発根促進処理

発根が困難だったり根数の少ない植物は、発根を促すために母樹や挿穂にいろいろ処理をする方法がある。

〔1〕母樹に対する処理 (1)黄化処理 落葉樹の発根しにくい種類に応用するもので、新芽が伸び始めたときに、株全体を弱光線の温室内に置いたり、一枝を半透明のもので被覆したりして、茎を若い状態にしたものを挿穂とする。(2)養分蓄積処理 太枝の一部の樹皮に環状剥皮(はくひ)を行うか傷をつけ、挿穂とする茎葉内に炭水化物の含有量を高めることにより養分の蓄積ができ、発根しやすくする。作業に手間がかかる不利はあるが、効果はある。

〔2〕挿穂に対する処理 (1)吸水処理 挿穂に十分吸水させ(1~10時間内外)、切り口の汁液を洗い、通道組織の吸水をよくし、あわせて酸化酵素の作用を抑制し、発根を促す方法。(2)乾燥処理 水分の多い多肉質のものや腐りやすい草花類では、一度日陰で乾燥させて、切り口がふさがってから挿す(ゼラニウム、サボテン類など)。(3)薬品処理 発根を高めるため、ホルモン剤の使用や酸化抑制剤が利用されている。使われる薬剤は主としてIAA、IBANAA、NAd剤などあるが、有効性は樹種により異なり、濃度差により長短がある。

[堀 保男]

挿床

発根力の強い植物では、挿床は、庭先の土をよく掘り起こし軟らかくしただけでよい。しかし、発根力の弱いものは、挿床をくふうする必要があり、また、園芸の生産面から種々の挿床が用いられる。

〔1〕箱挿し(鉢挿し) 木箱、プラスチック(発泡スチロール箱)などを用いたもので、少数挿しと移動に便利である。

〔2〕床挿し 専業生産者がよく用いる方法で、床土を短冊状に盛り上げる方法と、外枠をつくり、中に床土を入れる方法とがある。排水をよくした挿床である。この方法は夏に乾燥しやすいので、上を寒冷紗(かんれいしゃ)やよしずなどで遮光することが必要である。

〔3〕密閉挿し 挿木したあとに床や鉢全体をポリエチレンフィルム(またはビニル)で完全密閉し、発根させる。この方法は、挿木するときに十分灌水(かんすい)し、あとは発根まで無灌水であるため、省力化した増殖法である。内部が高温となり葉焼けをおこすので、十分な遮光が必要となる。なお、被覆物を取り除くときは、まずフィルムに穴をあけ徐々に外気に慣らすことがだいじで、一度に取り去ると環境の激変により萎縮して生育が阻害される。

〔4〕ミスト挿し 温室内に挿床をつくり、挿穂に必要に応じて水を霧状に噴射させることにより湿度を保持し、さらに温度、日照を調節し発根を促す。この方法は設備費がかかるが、挿木回数を多くして、多数の苗を得ることができる。

[堀 保男]

挿木の時期

自然条件下での挿木の時期は、温度、湿度、日照、穂の熟度から次のように区分できる。(1)春挿し(2~3月) 主として落葉樹の萌芽(ほうが)前の休眠枝を挿穂として利用する。常緑樹では前年枝を用いるが、発根の悪いものが多い。(2)夏挿し(梅雨(つゆ)挿し) 常緑樹、落葉樹ともに、新梢(しんしょう)が伸長を一時停止し、やや固くなったころがよい。とくにこのころは温度、湿度、日照が比較的安定し、挿穂の熟度もよい。また、成長がやや遅れて充実するものは七月挿しあるいは土用挿しともいう。(3)秋挿し(九月挿し) 夏に伸びた枝葉が充実し、温度の低下と湿度の増大で挿木しても発根しやすい時期となる。しかしこの時期に挿木したものは、2~3か月で冬となるため、凍霜害を受けやすいところから、防寒対策が必要となる。

[堀 保男]

挿木の管理と手入れ

挿木は挿床に十分灌水してから行うが、挿木が終わったら再度灌水し、床土を落ち着かせる。挿木してから約15日間は安静期間ともいえる。その間、挿穂が動いたりすると発根が悪くなるので、高挿しとならないようにし、強い風に当てないようにする。また夏は直射日光で葉焼けをおこしやすいので、日よけをし、50%以上遮光する必要がある。発根は木本類で30~60日程度であるが、針葉樹のように6か月以上かかるものもある。草本類では比較的早く、20~40日で発根するものが多い。草本類では、遮光する期間は普通2週間程度である。床土は乾燥させないことがだいじである。密閉挿し以外は葉面灌水をときどき行って、葉面の温度を下げることも活着をよくすることに通じる。

[堀 保男]


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改訂新版 世界大百科事典 「挿木」の意味・わかりやすい解説

挿木 (さしき)
cuttage
cutting

植物体の一部分(挿穂)を切りとり,土壌,川砂,バーミキュライトなどに挿して不定根や不定芽を発生させ,新しい個体を得る方法。花木,果樹などのほか,キク,カーネーション,ペペロミア,セントポーリア,グロキシニアなどの草本植物でも行われる。挿穂として利用する部位によって葉挿,枝挿(茎挿),根挿に分類されるが,枝挿が一般的である。挿木によって母植物と同じ形質をもつ個体を比較的簡単に多数増殖することができ,また,挿木苗は種子から育てた植物(実生苗)に比べて開花や結実が早くなる。しかし挿木苗は実生苗や接木苗に比べると根が浅く,寿命が短くなることがあり,種類によっては挿木の難しいものがある。

 植物を切断すると,切断部付近に不定根や不定芽が形成され,失われた器官が再生されるが,その再生力は植物の種類,挿穂の採取部位,挿木の時期などで異なる。枝挿の場合,木化の進んでいない分裂機能の旺盛な枝で,貯蔵養分の多いものは発根しやすいが,このような枝が採取できる夏の高温時には挿穂がしおれやすく,腐敗しやすい。そこで,葉が厚く,表皮にクチクラが発達して,しおれにくい常緑広葉樹では7~8月に挿木し,葉がしおれやすい落葉広葉樹では木化の完了した落葉後の枝を貯蔵しておいて2~3月に挿木をするのが普通である。しかし,ポンプで加圧した水を挿穂に断続的に噴霧して蒸散を抑えれば,落葉樹でも木化の進んでいない発根しやすい枝を用いて夏に挿木ができる。また,挿穂の発根にはオーキシンが関与しており,挿穂の基部をオーキシン溶液に浸漬(しんし)すると発根が促進され,挿木の成功率も高まる。これらの方法を用いることにより,従来,挿木が難しいとされていた種類でも,多くのものは挿木ができるようになった。
執筆者:

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百科事典マイペディア 「挿木」の意味・わかりやすい解説

挿木【さしき】

無性繁殖法の一種。母本(ぼほん)の一部を切って挿床または地面に挿し発根させる。全く同一の個体を数多く作ることができるので,園芸品種などをふやす場合に多く用いられる。しかし樹木などの場合には浅根性となり,寿命が短い欠点もある。枝挿,芽挿,葉挿,根挿などがあり,樹種や種類により挿す時期が異なる。
→関連項目接木

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「挿木」の意味・わかりやすい解説

挿木
さしき
cuttage; cutting

植物の栄養器官の一部を切り離し,これを土に挿し,発根,発芽させて新苗をとる栄養繁殖法。用いる部分により枝挿,葉挿,根挿などと呼ばれる。この方法により母木と同一形質の植物を容易に得ることができ,ブドウ,イチジクなどの果樹やキク,ベゴニアなどの園芸植物の繁殖に広く用いられている。

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世界大百科事典(旧版)内の挿木の言及

【切削】より

…広義には素材よりも硬い物質でできている工具を通して機械的力を作用させ,素材を局部的に変形,破砕,分離してくずとして除去しながら所要の形状,寸法,表面粗さをもつ製品を作り出す加工法をいう。工具は,身近ではいわゆる刃物のほか,のこぎり,きり,やすりなどがあり,また機械工場などで用いられるものには,バイト,フライス,ドリル,ブローチなどの,力を作用させる部分(刃形)の形状が正確に決定しているもの以外にも,研削盤のといしのと粒のように形状が不定のものや,みがき砂のように固定されていないものもある。…

【園芸】より

…生産園芸が発達すると経営も分化して,欧米では庭木用の苗だけの生産の場合に移動用容器に入れて栽培する方法が盛んである。ミスト法による挿木法などがとり入れられ,キクやカーネーション,洋ラン,球根ベゴニア,セントポーリアなどの増殖にはメリクロン法などが利用されている。
[花木園芸]
 言葉の上では花木,植木,庭木の別があるが,いずれにしても木本植物であることにはちがいがなく,これを取り扱う業を花木園芸という。…

※「挿木」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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