偶因論(読み)グウインロン(その他表記)occasionalism

翻訳|occasionalism

関連語 名詞

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「偶因論」の意味・わかりやすい解説

偶因論
ぐういんろん
occasionalism

機会原因論とも訳される。デカルト派の一部の唱えた説。万象の変化の真の原因は神であり,被造物の行為も原因であるようにみえるが,実は神がそれを契機として,そのたびごとに行為する機会となるにすぎないとする。偶因論はまず精神がどのように身体へ働きかけるかという問題への一つの解答として出発した。厳格な二元論を樹立したデカルトにとって心がどのように身体に働きかけるかは大きな難題であり,心身の相互作用を事実として認めるだけで,十分な説明をなしえなかった。精神と物体 (肉体) というまったく異質な2実体間の交渉に超越的な神を持出す説明は,ドイツの J.クラウベルク,フランスの L.ド・ラ・フォルジュに始った。偶因論の代表者はオランダの A.ゲーリンクスとフランスの N.マルブランシュである。この2人にあっては信仰と神中心の世界観が偶因論の支えとなっている。マルブランシュは偶因論をキリスト教哲学体系として確立した。それによると神は万象を創造し,その変化の唯一の動因として一般法則を通して世界を主宰する。一般法則が個々の場合に適用される際に機会因が現れる。一般法則には自然法則と恩恵の法則があり,後者に関してはイエスを恩恵の分配の機会因とする思想などが展開されている。なお,デカルトの心身問題より出発した理論としてスピノザ平行論ライプニッツ予定調和説がある。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の偶因論の言及

【機会原因論】より

…偶因論ともいう。デカルト以後の哲学の重要問題であった心身問題や神と世界の問題を,神の作用を強調する方向で解決しようとして,17世紀後半のデカルト学派の哲学者コルドモアGéraud de Cordemoy,ゲーリンクスマールブランシュらが立てた説。…

※「偶因論」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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