オランダのデカルト派を代表する哲学者。アントワープに生まれ、のちにオランダに移る。ルーバン大学に学び、デカルト哲学に傾倒する。母校とライデン大学の教授となるが、ペストに倒れた。デカルトの二元論を心身問題にも徹底させようとして、機会原因論(偶因論)を説き、心身の直接的因果作用を否定した。精神と身体の変化は、神の媒介によって引き起こされる。前者のなかに運動が現れると、これを「機会(オカジオ)」として神は後者にも対応する作用を引き起こすと考えた。これは神の支配の絶対性を強調することであり、そこから人間の無力の自覚と神への服従が説かれた。デカルト哲学はこの倫理学説によって補われなければならないと、彼は考えたのである。
[香川知晶 2015年11月17日]
『桂寿一著『デカルト哲学とその発展』(1966・東京大学出版会)』
デカルト学派の哲学者。ベルギーのアントワープに生まれ,ルーバン大学に学んで,のち同大学の教授,ついでオランダのライデン大学教授となり同地で没した。代表的な機会原因論者の一人。デカルトは精神と物体とを独立する実体として分離しながら,人間においては心身結合をみとめたが,ゲーリンクスは両者の直接的相互作用を否定し,身体の刺激によって精神に感覚が生じたり,精神が意志によって身体を動かす場合も,真の作用者は神のみであって,神が身体の刺激または精神の意志を〈道具〉ないしは〈機会〉として感覚または身体の運動を生ぜしめるとした。彼はまた倫理学を重視して主著《倫理学》(1675)を書いたが,そこでも神が唯一の能動者であるこの世界において,人間は単なる〈傍観者〉にすぎないことが強調され,そのような人間が自己の無力を自覚して神の摂理に従う〈謙虚〉の徳が称揚されるとともに,自愛にもとづく幸福欲が厳しく退けられている。ほかに《真の形而上学》(1691)などの著書がある。
執筆者:赤木 昭三
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