公共輸送(読み)こうきょうゆそう

改訂新版 世界大百科事典 「公共輸送」の意味・わかりやすい解説

公共輸送 (こうきょうゆそう)

特定多数の一般公衆を顧客とする輸送をいう。日常利用する鉄道,バス,タクシー,航空などの運輸事業のサービスは公共輸送であり,所有者しか利用できない自家用車などは公共輸送ではない。また運輸事業であっても特定の顧客の貨客だけを扱う特定輸送は,公共輸送とは見なされない。公共輸送事業者を公共運送人common carrierという。公共輸送の公共とは,特定の個人の専用でなく誰でも利用可能なサービスということを意味するにすぎない。この点では,公共輸送は街の一般商店と異なるものでなく,公共輸送を自家用交通以上に尊重すべき先験的理由があるわけではない。

 公共輸送の本質を端的に示すものは,公共運送人に課せられる運送義務である。たとえば〈鉄道営業法〉は運送拒絶の禁止を規定しており,鉄道は対価を支払う意志を示して運送を申し込む者に対し,その申込みを拒絶できない。他の公共交通機関についても同様で,これにより公共運送人のサービスが誰にも利用可能なものであることが保証されている。

 公共輸送は,このような義務のない自家用車との競争上不利な立場にある。自家用車利用者は,都合のよい交通を自家用車で行い,都合の悪い交通を公共輸送に負わせることができ,クリーム・スキミングcream skimming(牛乳のうち美味なクリームだけをすくいとる)が生じる。たとえば,公共輸送は自家用車に比べ利用の自由度や快適性のうえで劣るから,所得が向上すると公共輸送の利用者は自家用車に転換する傾向がある。つまり,公共輸送は下級財劣等財)の性格を持つ。自家用車の普及にともなって,公共輸送の採算は悪化し,人口の過疎化とも重なって,とくに地方でその廃止が続いた。経済的・身体的理由で自家用車を使えない人々のための公共輸送の維持も,社会的な問題の一つとなっている。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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