公訴権濫用論(読み)こうそけんらんようろん

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

公訴権濫用論
こうそけんらんようろん

犯罪の十分な嫌疑が存在しないとか,嫌疑はあるが起訴猶予にするのが相当であるとか,あるいは捜査の過程に重大な違法があったために本来起訴すべきではなかった事件を,検察官があえて起訴した場合には,このような公訴権の行使は濫用 (公訴棄却または免訴) にあたり,違法であるとして,裁判所が形式裁判により訴訟手続を打切るべきだとする主張。おもに公安労働事件などの裁判において弁護側から主張されはじめたものであるが,水俣病 (川本) 事件の控訴審判決がこの考え方を採用したこともあり,学説上も広い関心を集める問題領域となった。しかし最高裁判所は,「公訴の提起自体が職務犯罪を構成するような極限的な場合」に限って公訴の提起が無効となるとし,きわめて限定的な立場をとっている。

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公訴権濫用論【こうそけんらんようろん】

嫌疑不十分であるとか,起訴猶予すべき事情があるとか,違法・無効な捜査方法があったような事件の起訴は,検察官による公訴権限の濫用であって無効であり,裁判所は公訴棄却棄却)もしくは免訴などの形式的な裁判で手続を打ち切るべきだとする主張。主に1960年代の公安労働事件における実践的な弁護活動を通じて生成された考え方で,実務・学界を巻き込んだ大論争に発展した。不起訴処分に対する検察審査会準起訴手続のような補充的制度が訴追権の行使にはないことや戦前の予審制度の廃止などもその背景をなしており,何らかの立法的改革の必要性は大方の認めるところとなった。なお,最高裁判所も検察官の裁量権の逸脱が公訴の提起を無効とする場合があることを否定していないが,極限的な場合に限られるとの立場をとっている。
→関連項目公訴

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