公務員の職権濫用罪について告訴または告発があったにもかかわらず,検察官が公訴を提起しない処分をしたときに,告訴人または告発人の請求により裁判所が事件を審判に付する決定をする手続(刑事訴訟法262~269条,刑事訴訟規則169~175条)。付審判手続ともいう。職権濫用罪(刑法193~196条,破壊活動防止法45条)については起訴独占主義の原則どおりであると,時として,検察官が内部者の犯罪を〈職務熱心のあまり〉とみて不起訴処分に付する傾向が避けられないので告訴人等に付審判請求権を認めたのである。
すでに戦前から,犯罪捜査における人権侵害を防止する手段としてこの種の手続の必要性が主張されていたが,立法化は現行刑事訴訟法の制定によってである。立案に際して,ドイツの起訴強制手続が参照されたが,準起訴手続では,対象犯罪が限定されている点,起訴を義務づけるのではなく,付審判の決定により起訴が擬制される点などが異なっている。
告訴人等の請求は,不起訴の通知を受けた日から7日以内に,請求書を検察官に提出して行う。検察官は,請求に理由があると認めるときは,公訴を提起するが,理由がないとして不起訴を維持するときは,公訴を提起しない理由を記載した意見書を添えて,書類および証拠物とともに請求書を裁判所に送付する。裁判所は,合議体で請求について審理し,その結果,請求が不適法であるときまたは理由がないときは,決定で請求を棄却する。〈理由がない〉とは,訴訟条件を欠いたり,犯罪の嫌疑がない(または不十分である)場合だけでなく,起訴猶予を相当とする場合も含む。逆に理由があるときは,事件を管轄地方裁判所の審判に付する旨の決定をする。付審判決定があったときは,公訴の提起があったものとみなされ,公判手続が開始される。検察官は,公判手続には関与せず,裁判所がその事件について公訴の維持にあたる者として指定した弁護士が,裁判の確定するまで検察官の職務を行う。ただし,検察事務官および司法警察職員に対する捜査の指揮は,検察官に嘱託して行わなければならない。
以上の手続で,運用上疑義を生じやすいのは,付審判の請求に対する審理の方式についてである。請求が検察官の起訴猶予処分のみを問題とする場合は,検察官の意見と請求人の主張とを対照すれば十分であろうが,請求が嫌疑なし(または嫌疑不十分)を理由とする不起訴に対するものであるときは,証拠の補充や再吟味のため裁判所が主宰する捜査手続の色彩を帯びる。その際,請求人が事実の取調べに積極的に関与すること(記録の閲覧謄写,被疑者の取調べや証人尋問の立会い,証拠の申請など)を求めたときに,これをどの程度許すべきかは,被疑者の名誉,プライバシーの保護,捜査の密行的性格などとも関連するだけに,答は必ずしも容易ではない。最高裁判所は,この審理手続については,裁判所の適切な裁量により必要な方式を採りうるとしている。
準起訴手続の実際の運用をみると,相当数の付審判請求がなされているが(1986-95年の平均で年間369件),現行法施行後,1997年までに請求が認容されたのは,わずか17件にすぎない。これらの多くは警察官を被疑者とするものであるが,裁判官が職権を濫用して刑務所長に元受刑者の記録を開示させたとして付審判決定のなされた特異なケースもある。
執筆者:長沼 範良
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…そもそも検察官は公訴権行使のために設けられた機関であるから,検察官が公益の代表者として起訴を独占するのは必然的な方向であるが,日本ではその度合いがとくに高い。すなわち,公務員の職権濫用罪に関する〈裁判上の準起訴手続〉(〈付審判請求手続〉ともいう)において,裁判所の決定により公訴提起があったものとみなされ,検察官の職務を行う弁護士(いわゆる〈指定弁護士〉)が公訴の維持にあたるのが,唯一の例外である(刑事訴訟法262~269条)。これは,検察官が不当に起訴しない場合の弊害を防ぐため,起訴独占主義を修正したものである。…
※「準起訴手続」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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