日本大百科全書(ニッポニカ) 「冒険貸借」の意味・わかりやすい解説
冒険貸借
ぼうけんたいしゃく
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船舶または積み荷の所有者が、航海に先だって、その船舶または積み荷を抵当として、航海中または一定の期間にわたって金主から資金を借り入れ、航海の途中で海難などにあった場合には、損害の程度に応じて債務の全部または一部の返済を免れるかわり、無事に航海を終わった場合には、元金と利息を返済することを約束する貸借取引。古代ギリシア・ローマ時代には海上貸借として行われ、中世のイタリア諸都市において冒険貸借として盛んになったもので、海上危険が少なくなかった地中海貿易において大きな役割を果たした。
冒険貸借は、普通の貸借よりも債権者にとって危険が大きいため、その利息は非常に高率であった。それは危険転嫁の性質をもつ点において、保険契約と共通な機能を果たすものであった。しかし、その後教会の利息禁止令(ローマ法王グレゴリウス9世による1230年の法律)によって冒険貸借も全面的に禁止されたため、やがて消滅した。もっとも、この制度を必要とした社会経済的背景は依然として存在していたのであるから、すぐにこれにかわる危険負担方法が考案された。それは無償消費貸借に仮装した無償貸借である。しかし、この貸借でも利息禁止令から免れることができず、売買取引に仮装して行われるようになり、ついに14世紀中葉には純粋の海上保険契約が登場するに至った。
なお、日本においても、御朱印船時代には抛銀(なげがね)とよばれる冒険貸借に類似した取引が行われていた。
[金子卓治]