船舶所有者の略称。広義では船舶の所有権を有する者をいうが,狭義では,船舶を所有し,かつそれを商行為(たとえば運送営業など。商法502条参照)をなす目的をもって航海の用に供する者をいう(684条参照)。船主という語は,漁船の船主とか,外洋ヨットの船主などとも用いられるが,通常は,主として商法上の規整対象である海上企業者としての狭義の船主を指す場合が多い。船舶を所有する形態は,個々の船主がそれぞれ単独で所有する場合もあれば,複数で共有(船舶共有)する場合もある。船主たりうるのは,自然人でも法人でもよいが,日本船舶(〈船籍〉の項参照)を所有できるのは,自然人の場合は,日本国民,法人の場合は,たとえば株式会社にあっては,取締役の全員が日本国民でなければならない(船舶法1条)。日本の船主が船舶賃貸借契約や定期傭船契約により,外国船舶を利用することもある。
船主が海上企業を遂行するにあたって負担した一定の債務については,有限責任とすることが,古くから各国において認められている。ローマ法においても,この制度は存在したようであるが,現在のような制度は,中世までさかのぼることができるとされている。船主責任制限の根拠としては,(1)海商法に特有な制度として古くから認められてきたということ,(2)航海はとくに危険性が大きいこと,(3)海上企業を国策上とくに保護奨励する必要があること,(4)船長の代理権の範囲が広範なこと,(5)船長その他の高級船員は,国家がその技量を公認したものであり,かつ航海中は船員の行為について船主が指揮監督することは困難であり,船主に無限責任を負担させるのは過酷であること,などがあげられている。しかし,現在においては,これらの理由は,必ずしも海上企業にのみ特有なことではなく,船主有限責任制度は,理論的には問題の多い制度である。ただ,現実には,世界の海運国はすべてこの制度を維持しており,特定の国だけがこれを廃止することは困難である。結局,古くから各国海商法がこれを認めてきたという沿革的理由と,海上企業の保護奨励という政策的理由に,その根拠を求めるのが通説である。船主責任制限の立法主義には,委付主義,執行主義,金額主義,船価主義,併用主義などが存在したが,1957年の船主責任制限条約が,1862年の商船法以来イギリス法がとっていた金額主義を採用してから,ほとんどの海運諸国は,この条約を国内法化し金額主義をとっている。金額主義は,船主の責任を,事故ごとに定め,その責任額を,船舶のトン数に応じて算出された一定の金額に制限するものである。日本の船主責任制限制度は,従来,委付主義(船主が海産を債権者に委付して,その海産の限度で責任を免れうる)をとっていたが,1975年に,1957年の船主責任制限条約を摂取した〈船舶の所有者等の責任の制限に関する法律〉(略称,船主責任制限法)が制定され,金額主義をとることとなった。その後,76年に,1957年条約について,現状に即応するような変更(責任限度額の引上げ,その計算の基礎を金フランをやめSDR(国際通貨基金の特別引出権)にすることなど)を行う〈海事債権についての責任の制限に関する条約〉が成立したので,日本も,1982年に,この条約を批准し,先の船主責任制限法の一部を改正して(1982)現在に至っている。
→船舶賃借人
執筆者:佐藤 幸夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
ふなぬし。船の持ち主。商船、漁船を問わず船舶所有者をさすが、船会社や海運企業の通称でもあり、海運取引における運航業者に対する貸渡(かしわたし)業者(船舶所有者、オーナーowner)の別称としても使われている。船主はおおむね船員を雇用する。同一所有者でありながら、所有隻数ごとに所有者名義を分ける場合が多い。大企業はきわめて少なく、零細企業が圧倒的に多い。所有船舶が1隻で、家族船員とともに自らも乗り組む船主を、船主船長、または一杯(いっぱい)船主という。
日本の船主は外航船主(近海船主を含む)と内航船主に分かれる。外航船主は、国際海運の無国籍化のもとで、日本船を名目的に所有するだけになり、その所有船舶のほとんどをパナマやリベリアなどの外国船、すなわち便宜置籍船(べんぎちせきせん)として所有している。この便宜置籍船はもとより、日本船においてもフィリピン人をはじめとした外国人船員が雇用されており、日本人船員は船長、機関長など管理職員が配置されるにとどまっている。ただ、内航船主は日本人船員が乗り組む日本船を所有している。
外航船主にあっては、1990年代、企業合併が大規模に進み、日本郵船(株)、商船三井(株)、川崎汽船(株)という、ごく少数の大手運航業者が業界を支配する体制となった。これらの業者は国内外の船主を貸渡業者として傘下に収め、日本全体の運賃収入の3分の2以上を受け取っており、ほかの船主との格差はきわめて大きい。内航船主はその数が非常に多く、しかもそのほとんどが主として中国、四国、九州地方に居住する一杯船主であり、また貸渡業者として、かなりの数の荷主系列や外航船主系列の運航業者の傘下に入っている。いずれにおいても、運航業者が、荷主と取引して、輸送サービスを行っている。
こうした外航船主の便宜置籍船化や外国人船員雇用、そして海上輸送における多重構造は、長年にわたる海運政策に基づいて築かれたものである。
なお、有力な外航や内航船主は(社)日本船主協会に所属している。
[篠原陽一]
『篠原陽一・雨宮洋司編著『現代海運論』(1991・税務経理協会)』▽『武城正長編著『国際交通論』(1998・税務経理協会)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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