最も広い意味では,将来生じうる損害に対し一定の塡補をすること,またはそのためのものをいう(例えば,売主の担保責任,損害担保契約などというとき)。しかし通常はとくに,特定の債権につき債務不履行に備えてその経済的価値を確保すること,またはそのための手段をさす。以下ではこの後者の意味における担保,つまり債権担保の法制度につき略説する。
一般に債務者が任意に債務を履行しないときは,債権者はその債権に基づき債務者の一般財産に対し執行(これには,個別執行たる民事執行手続と総括的執行たる破産手続とがある)をして債権の弁済にあてる。このような意味において債務者の一般財産は債権の最後のよりどころであるといえる(債権者代位権および債権者取消権は,この一般財産の経済的価値を保全するために民法上債権者に付与されている権利である)。しかし,個別執行においても破産においても,複数の債権が競合するときは,それらの債権は,その成立の前後,成立の原因,その種類を問わず,原則としてすべてその債権額に比例して平等に扱われる(債権者平等の原則)。その結果,先に成立した債権も,その後に成立した債権により,その経済的価値を害されるおそれがある。特定の債権につきこの危険を防止しその経済的価値を確保するためには,債務者の一般財産以外にその債権の引当てとなるものをあらかじめ押さえておく必要がある。このための特別の制度が担保制度である。
この債権担保のための制度には大きく分けて人的担保と物的担保の二つの制度がある。このうちまず,人的担保は債務者以外の者の一般財産を引当てとするもので,保証と連帯債務がそのおもなものである。また物的担保は債務者または第三者(物上保証人)の所有する財産を引当てとするものであって,これにはさらにその法的形式の面からみて,(1)所有権に対する制限物権としての担保物権という構成をとるもの(民法上は,留置権,先取特権,質権,抵当権の4種類の担保物権が認められているほか,民法以外の法律上も特殊な担保物権が多数存在する),(2)担保の目的たる権利(とくに所有権)自体の債権者への移転という形式をとるもの(譲渡担保,仮登記担保,民法579条以下の買戻しなど)の,二つの形態があり,近代ヨーロッパ大陸法およびそれ(とくにフランス法)を継受した日本民法の担保法制は前者を中心とし,他方,英米法におけるモーゲージは少なくとも歴史的には本来,後者を典型的制度として発展せしめたものといえる。
ところで人的担保は法律上すべて債権者と担保者との諾成契約(現実の引渡しなどを要せず,当事者の合意のみで契約が成立すること。要物契約に対する概念)のみによって成立するという簡便さはあるものの,担保者の一般財産については債権者平等の原則がはたらき,したがってその担保としての価値は担保者の人的要素によって左右される。これに反し物的担保,とくに目的物の交換価値に対する優先的支配を通じて債権担保の目的を果たす抵当権等の制度は,かかる人的要素に左右されることなくより安全・確実に債権担保の目的を果たしうるもので,信用授受の広域化,資本主義経済の発展とともに漸次,債権担保の中心的機能を営むに至っている。ただ,このような物的担保の目的物たりうる財産を有しない者の金融にとっては,人的担保も今日なお一定の社会的意義を有しているといえよう。
いずれにせよ全体としてみれば現代社会における金融・経済活動にとって担保制度がきわめて重要な機能を果たしていることはいうまでもない。そして今後におけるそのいっそうの整備・充実は,債権者にとってのみならず,債務者およびそれ以外の第三者にとっても重大な利害を有する課題である。とくに信用力・資金力において劣る企業や消費者にとっては,一方で担保制度の拡大・充実(人的担保についてはとくに担保者の人的要素への依存度の少ない諸制度の整備,物的担保についてはとくに担保適格を有する財産の範囲の拡大・多様化とそのための法技術の開発・整備),他方で,債権者たる金融機関による担保を媒介とする不当な支配からこれらの者を保護することが重要な課題である。他方,また物的担保制度の拡大・強化の反面として,とくに担保目的物につき取引関係に入ろうとする第三者の取引の安全が害されることのないような配慮や,あらかじめ物的担保をとることが困難な債権者(例えば,企業の従業員・下請業者等)の社会的不公平を是正する方途が慎重に検討されなければならない。
執筆者:東海林 邦彦
訴訟上の担保としては,民事訴訟における訴訟費用の担保(民事訴訟法75条),仮執行をなしまたはそれを免れるための担保(259条),控訴・上告等に伴う執行停止等のための担保,仮差押命令等の保証などがあり,当事者の一方が,自己に有利な訴訟行為を許される場合に,将来相手方がこうむることになるかもしれない損害や不利益を補塡し,また,執行手続を保障するためにあらかじめ提供を命じられるものである。このうち,訴訟費用の担保が供与されることは,実務上,非常に少なく,それ以外の担保の供与は多くなされている。担保を供与するには,担保を立てることを命じた裁判所または執行裁判所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄区域内の供託所に,金銭または裁判所によって認められた有価証券で供託するほか,当事者間の契約で担保権の設定または人的保証契約でもなされ,また,銀行または保険会社との間で支払保証委託契約を締結する方法も認められる。立てられた担保に対して,相手方は質権者と同じ権利を持つ。
執筆者:清田 明夫
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広義には、将来他人に不利益を与えないことを請け合い、万一不利益が生じた場合にはその補いをつけること、またはその補いとなるもの一般をさす。しかし普通は、とくに債務が履行されない場合に備えて当事者間に設定されるものをいう。すなわち、債務者(たとえば金銭の借主)が金銭を返済しない場合に備えて、債権者(貸主)がその弁済を確保するためにあらかじめ講じる手段を担保という。これには物的担保と人的担保がある。物的担保とは、債務者または第三者の提供する物について、債権者がその価値を把握する(債務者が弁済しないときにこれを換価するなど)ことによって、あるいは、その利用を把握する(債務者にそれを利用させないなど)ことによって、自己の債権の弁済を確保しようとするものである。民法には留置権、先取(さきどり)特権、質権、抵当権の4種の担保のための物権が定められており、そのほか特別法上の各種の担保制度がある。
また、譲渡担保、所有権留保などの方法が担保の手段として用いられることも多い。人的担保は、狭い意味においては、債務者の総財産だけでなく、債務者以外の者の総財産をも債務の引き当てとすることによって、債務者が無資力になっても弁済が得られるようにしておく担保の方法(保証人をたてることがこれにあたる)である。今日では、連帯債務などのように多数当事者の債務も人的担保の機能を果たすものであることから、これらも含めて人的担保ということが多い。なお相殺の予約が担保としての機能を果たすことがある。
[高橋康之]
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出典 自動車保険・医療保険のソニー損保損害保険用語集について 情報
…質取主は質物を保全する義務を負い,債務不履行の場合には一定の条件のもとに売却し,その代価をもって債務の弁済に充てる売却質を原則としたが,債権者に帰属する流質の慣行もあった。
[中世]
売買・貸借などの取引における担保・抵当を質といった。貸借において担保を必要としたことはいうまでもないが,中世には売買にも担保を必要とした。…
※「担保」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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