出生前小児科学(読み)しゅっせいぜんしょうにかがく(その他表記)prenatal pediatrics

改訂新版 世界大百科事典 「出生前小児科学」の意味・わかりやすい解説

出生前小児科学 (しゅっせいぜんしょうにかがく)
prenatal pediatrics

出生前に原因をもつ小児疾患,すなわち先天異常を対象とし,その診断・治療・予防を目的とする小児科学の一分野。近年の遺伝学,発生学,分子生物学,疫学進歩により確立されたのであり,従来,体質,素因,先天性弱質,遺伝病など漠然と表現されていた種々相が整理されている。ファンコーニG.Fanconi,高津忠夫によって提唱された(1965)。

両親の遺伝形質は遺伝子として配偶子(精子卵子)に伝えられ,それらが合体した受精卵の1対の遺伝子によって児の一つの形質が決定される。配偶子の段階で生じた異常は受精卵以後の染色体に異常を生じ,個体発生の変異が生ずる。受精卵は分化増殖を行っていく。受精後3ヵ月を胎芽期と呼び,各臓器が形成され,以後の胎児期にその形態と機能が発達する。胎芽期の胎内異常環境,薬剤服用,放射線照射は,臓器形成を阻害し,染色体異常とともに先天奇形の原因となる。ほかに遺伝性奇形も存在する。

出生前に原因をもつ疾患は原因発生時期に従って分類される。個体発生を受精以前の遺伝子,配偶子の段階から考えることにより,疾患発生の時間的経過が整理され,疾患の本質が理解される。すなわち,(1)遺伝子病,(2)配偶子病(染色体異常),(3)胎芽病,(4)胎児病である。遺伝子病は,両親に顕在または潜在する遺伝子の異常(欠損,変異)が児に伝達され,病的な症状を示すものをいう。先天性代謝異常および他の遺伝性疾患がある。配偶子病では,両親は正常であるが,減数分裂により精子と卵子が形成される過程で染色体の量的・質的異常が生じ,その結果,受精卵が異常個体となる。21番染色体が3本(トリソミー)の場合がダウン症候群である。胎芽病には,先天性心疾患,先天性風疹症候群,サリドマイド児などがある。胎児病には先天性の感染症の場合が多い。トキソプラズマ症巨細胞封入体症先天梅毒などがある。
小児医学
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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