疾患の原因には数多くの因子があげられているが、一般には生体の外部から与えられる原因と、生体の内部に存する原因とに大別され、疾患の成立には、この外因と内因両者の複雑な相互関係が重要視されている。この意味で、疾患にかかりやすい性状、すなわち内的条件を疾病素因あるいは素因とよんでいる。素因には、共通的な一般的素因と、各個人が有する個人的素因とがある。一般的素因には、ある年齢に好んで発生する病気がある場合に使われる年齢素因のほか、性素因、人種素因があり、さらに、多くの病気で侵されやすい組織や臓器があるときに使われる組織素因、臓器素因がある。一方、個人的素因には、先天性素因と後天性素因とがあり、先天性素因には体型と体質が属している。また、先天性素因のなかで遺伝性の明らかなものは遺伝性素因とよばれる。体型は、正常型、細身型(やせ型。極端なものは無力型)、肥満型(ふとり型)、運動家型(筋肉型)、発育異常型に分類されるが、体質は、個人の有する形態的、機能的、ならびに精神的な種々の性状が総合されたものである。普通の人にはなんの変化もおこさない程度の外因でも、ある特定の個人には疾患をおこすことがあるが、このような素因は特異体質とよばれる。また、一般に疾患に容易にかかりやすい体質を異常体質または病的体質とよんでいる。病的体質として、無力体質、発育不全体質、胸腺(きょうせん)リンパ体質、滲出(しんしゅつ)性体質などがあげられている。後天性素因としては、個体あるいは臓器組織の反応性の変化、および抵抗性の減弱などが考えられている。なお、素因と区別されなければならない用語として曝露(ばくろ)がある。これは疾病をおこす外因を受ける機会が多いことを意味して使われるものである。
[渡辺 裕]
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