ダウン症候群(読み)だうんしょうこうぐん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ダウン症候群」の意味・わかりやすい解説

ダウン症候群
だうんしょうこうぐん

特有な顔貌(がんぼう)と精神遅滞を特徴とする、常染色体異常による疾患である。650~700人に1人の割合で出生する。

 イギリスの医師ダウンLangdon Downが1866年に、特殊な精神遅滞の一群を「蒙古人型白痴(もうこじんがたはくち)」と報告したので、蒙古症(モンゴリズムMongolism)ともよばれてきたが、1959年にレジャンJ. Lejeuneらによって病因が染色体異常であることが究明され、疾患単位として確立して以来、ダウン症候群とよばれるようになった。

 臨床像としては、体型は低身長で肥満傾向がみられ、筋緊張が低下するので、乳児期の首の座りや寝返りなどの運動発達が遅滞する。知能は種々の程度の精神遅滞を示す。性格は温順である。顔貌が特徴的で、頭は幅が広い短頭、顔は平坦(へいたん)、目は目じりが外上方につり上がり、目頭は瞼(まぶた)が垂れ下がって覆われ、鼻根部は幅広くて扁平(へんぺい)で、鼻梁(びりょう)(鼻すじ)が低く、いわゆる鞍鼻(あんび)を示す。また、口を開いて舌を出していることが多く、歯や耳の変形を認めることがある。手では、指、とくに第5指(小指)が短く、内方彎曲(わんきょく)し、斜指症を示す。手掌では猿線(さるせん)(手掌を横断する線)が半数近くにみられる。

 ダウン症候群は、先天性心疾患、消化管形態異常、白血病の合併頻度が高い。

 診断は、臨床的特徴と皮膚紋理(掌紋)から比較的容易であるが、染色体検査によって確定する。

 染色体異常は常染色体21番目のトリソミーtrisomy(三染色体性)で、通常は1対2本の染色体が減数分裂時の不分離によって3本あり、ダウン症候群では90~95%にみられる。このほか、過剰の21番目の染色体が他の染色体に転座している転座型トリソミーや、21番目のトリソミーと核型正常細胞が混在しているモザイク型トリソミーなどが、わずかながらみられ、混在の度合いによって臨床症状が著しく異なる。

[山口規容子]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ダウン症候群」の意味・わかりやすい解説

ダウン症候群
ダウンしょうこうぐん
Down's syndrome

21番染色体がトリソミー(通常 1対〈2本〉の相同染色体が 1本過剰に染色体を有すること)となる染色体異常によって引き起こされる先天性疾患。21トリソミーともいう。かつては蒙古症とも呼ばれた。患者の総染色体数は非患者より 1本多い 47本となる。1866年に疾患の特徴を初めて発表したイギリスの医師ジョン・ラングドン・ダウンの名にちなんでつけられた。患者の症状は軽度から重度まで幅があるが,一般的所見として,短頭,平坦な顔面短頸,眼瞼裂斜上(目尻がつり上がっている状態),耳介低位,肥大した舌・唇などの特徴が認められる。そのほか,筋緊張低下,心奇形,腎奇形(→奇形),皮膚紋理(→掌紋指紋足紋)の異常もみられる。すべての患者に知的障害があるが,通常軽度である。また,40~60%に先天性心疾患が認められる。ダウン症候群は生児出生 700~1000例に 1例の割合で発生するといわれ,母親が 35歳を過ぎるとその確率は著しく高まる。40歳を過ぎた母親の場合,発生率は 1/100から 1/30となる。また再発率は 1%である。11週から 14週の妊婦に対して行なわれる超音波診断羊水診断によって診断される(→出生前診断)。

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