心理的な原因,多くは欲求不満や葛藤にもとづいた精神的な障害をさす精神医学用語。ドイツの精神科医ゾンマーR.Sommerが1889年に〈心因症Psychogenie〉という名称を用いたのが,この概念の端緒とされる。心因反応という用語はやや多義的な概念で,神経症をこれに含めないのが現在の一般の見解であるが,神経症ことにヒステリーを含める人もある。具体的には,いわゆる原始反応(衝動的,爆発性の短絡反応,驚愕反応,昏迷,もうろう状態など)のごとき強烈な体験刺激に直接ひきつづいて生じる低次元のもの(それゆえにヒステリー的な反応が含まれることがある)から,体験刺激に際して複雑な心理的加工が行われて症状が形づくられる種々の妄想的反応など(敏感関係妄想,好訴妄想,色情妄想,難聴者の迫害妄想,受刑者の赦免妄想,感応精神病など)を含んでいる。心因反応が成立するためには,心因となるべき十分な心理的体験が存在することは必須の条件で,心因が強烈なものであればあるほど反応をひき起こす確率は高い。しかし,一般にみることのできる心因反応の成立にあたっては,同様の心的刺激がすべての人に同様の反応を生じるとは限らないところからして,心因となる体験を受けた側の素因あるいは人格の要因も無視できないものである。ドイツの精神科医K.シュナイダーは正常者に生じうる体験にもとづく了解できる反応(体験反応)よりも,反応のしかたが過度であるとか,過度に遷延するような場合を異常体験反応(心因反応と同義)と呼んで,その成立には人格が関与することを強調した。心因反応を生じやすい人格としては,人格発達の未成熟な小児,精神遅滞,暗示性の高い人,偏執的人格などがある。心因反応の経過は,原因となる心因の程度や持続と人格の偏りの程度いかんによって決定される。
執筆者:永島 正紀+野上 芳美
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