日本大百科全書(ニッポニカ) 「削掛」の意味・わかりやすい解説
削掛
けずりかけ
木片を刃物で削りかけの状態にした、呪術(じゅじゅつ)的または信仰的な飾り物。材質にはヌルデ、ニワトコ、ヤナギなど、木質が柔らかで細工しやすく、白く美しいものを選ぶ。両手で持つ専用の刃物を使う所もある。薄く長くつくって垂れ下げたり、十六花(じゅうろくばな)のように1本の木のところどころに削掛をこしらえたり、粟穂稗穂(あわぼひえぼ)のように皮のまま削りかけたのを竹に刺したり、さまざまな形がある。一般には旧暦1月15日前後の小正月(こしょうがつ)に、農作物の豊作を予祝するためにつくる所が多く、神棚、仏壇、大黒柱、長押(なげし)、堆肥(たいひ)の上、墓などに飾る。アイヌが熊送りのときに立てるイナウと称する幣束(へいそく)も削掛の一種である。削掛は紙の幣束の代用もしくは古形と考えられる。郷土玩具(がんぐ)のなかにもこの技法を取り入れたものがある。山形県米沢(よねざわ)市郊外の笹野彫(ささのぼり)、東京都亀戸(かめいど)天満宮や福岡県太宰府(だざいふ)天満宮の「鷽(うそ)」などが著名である。
[井之口章次]