祭具(読み)さいぐ

精選版 日本国語大辞典 「祭具」の意味・読み・例文・類語

さい‐ぐ【祭具】

〘名〙 祭祀に用いる道具。
※民法(明治二九年)(1896)九八七条「系譜、祭具及び墳墓の所有権は」 〔漢書‐郊祀志上〕

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デジタル大辞泉 「祭具」の意味・読み・例文・類語

さい‐ぐ【祭具】

祭りの儀式に使う道具。

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改訂新版 世界大百科事典 「祭具」の意味・わかりやすい解説

祭具 (さいぐ)

祭祀(さいし)に用いられる器具の総称。祭具は宗教儀礼と有機的に結合している。すなわち祭場の荘厳(しようごん)に用いられたり,神的存在と人間主体とが交わる通路づけの役割を果たしたり,また祭具自体が宗教的象徴物となるなど,さまざまな機能をになって,地上に聖なる儀礼的空間を現出させる。概して祭具は,民俗宗教においては,慣習的にその伝承様式を伝え,成立宗教においては教団の成立過程で定型化され,教義的意味づけを付与されて儀礼的行為のなかに位置づけられている。

《古事類苑》には,祭具は供進用,鋪設用,装飾用の3種に分類されている。第1の供進用祭具は神饌(しんせん)を盛り,幣帛(へいはく)を供える台として棚・案(あん)・机,運ぶ容器として筥(はこ)・籠(かご)・柳筥(やないばこ)・櫃(ひつ),供える御膳として板敷・高坏(たかつき)・四方(しほう)・三方(さんぼう),箸(はし),酒・水・饌などを盛る土器として甕(みか)・忌瓮(いわいべ)・厳瓮(いつきべ)・平瓮(ひらか)などである。第2の鋪設用祭具は祭場の神座をしつらえ,幣帛を包む薦(こも),食物をすえる麻簀(あさす),案・机の上下に敷物として用いる蓆(むしろ),畳,茵(しとね)などである。第3の装飾用祭具としては榊,注連(しめ),鈴(すず),鰐口(わにぐち)があげられている。榊は栄木(さかき)で常緑樹の総称であったが,後に一種の樹を特定して指すようになった。榊は神饌に供えたり,社殿,鳥居,玉垣などにつけて清浄を示したり,貴人に物を奉る際に用いたり,神事にあたって笏(しやく)にそえて持ち,あるいは衿にさすなどその用途は広い。しかし,装飾用のみに用いられるのではなく,神の物を枝にかけたり,紙垂(しで)をつけた榊の枝を案の上にたてて神霊をよりつかせる神籬(ひもろぎ)など,民間神道にみられるよりも明確な形をとらないまでも,神霊の依代(よりしろ)の機能もあわせもっている。注連縄(しめなわ)は社殿,祭場,神門,鳥居などに張り,不浄域とを分かって神域・清浄の表示に用いられる。鈴は中世以降神前にかけ参拝者が打ち鳴らして神意を和らげるのに用いられた。鰐口は鈴と同様の役割を果たすが両部神道で用いられ,現在神道では原則的には明治以降用いられていない。《古事類苑》は祭具のほかに〈器用部〉に飲食具,家什具,舟,車,輿などの項目を掲げて,祭具として用いられると述べている。現在では広義に祭器具として一括して祭具としている。

仏教で用いられるあらゆる道具を仏具あるいは法具と呼ぶ。どんな簡素な仏堂にも仏前に荘厳・供養具として置かれている三具足(みつぐそく)(香炉,燭台,華瓶)は仏具の基本である。大乗文献では《梵網経(ぼんもうきよう)》下巻に,修行僧がつねに携帯すべき〈三衣六物(さんねろくもつ)の道具〉として〈楊枝(ようじ),澡豆(そうず)(手を洗うための豆の粉),三衣(さんね),瓶(びよう),鉢,座具,錫杖(しやくじよう),香炉,漉水囊(ろくすいのう)(水中の虫を殺さぬため水をこす道具),手巾(しゆきん),刀子(とうす),火燧(かすい),鑷子(にようす)(けぬき),縄牀(じようしよう),経,律(《梵網経》),仏像,菩薩形像〉のいわゆる比丘十八物をあげている。《和名抄》では仏塔具,伽藍具,僧坊具,《古事類苑》では仏具(法具),僧具,僧服の三部に分類するなど,同じ仏具でも文献によって部門を異にし,一定の分類法はない。便宜上仏具を,僧服を除き,仏の荘厳・供養具と修行・法要に用いられる仏具とに分けることができる。仏の荘厳具,供養具として,舎利塔,厨子(ずし),須弥壇(しゆみだん),天蓋,幢幡(どうぱん),打敷(うちしき),水引,華鬘(けまん),礼盤(らいばん),経机(きようづくえ),三具足,五具足(香炉と燭台・華瓶各1対)などがある。密教の荘厳具として密壇(大壇),護摩壇などがこれに加わる。法要には鳴物といわれる梵音具と僧の持物としての僧具とに区分できる。梵音具には梵鐘,喚鐘(かんしよう),鏧(きん),引鏧(いんきん),鈴(れい),磬(けい),鐃鈸(にようはち),太鼓,木魚などがある。浄土教系の鉦鼓(しようこ),伏鉦(ふせがね),禅系の雲版(うんぱん),日蓮系の木鉦(もくしよう)などがこれに加わる。僧具としては数珠,扇,華籠(けこ),柄香炉(えごろ),座具,如意(によい),錫杖,払子(ほつす),曲彔(きよくろく)などである。このほか金剛杵(こんごうしよ),金剛盤金剛鈴,羯磨(かつま),六器など密教法具として,また頭襟(ときん),法螺(ほら),笈(おい),金剛杖などは修験用具として別に一括できる仏具である。

カトリックでは,教会は〈キリストの神秘体〉と考えられ,聖体拝領の儀式を最も重要視してきた。ミサの聖器具をあげると,聖体器(チボリウム),聖杯(カリス),聖杯蓋(パラ),聖皿(パテナ),聖櫃,聖体顕示台,3枚の祭壇布,聖体布,清浄布,燭台,香炉などがある。プロテスタントには,祈りを第一義とするイスラムとともに,祭具にみるべきものはない。
祭壇
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「祭具」の意味・わかりやすい解説

祭具
さいぐ

祭祀(さいし)において用いられる道具、器具、祭祀のシンボリズムを構成する物質的要素。仏教では仏具とよぶので、神道(しんとう)で神具とよぶこともあるが、一般に、仏教以外の宗教では祭具と呼び習わされている。

[中村恭子]

機能

祭祀は、人間が神霊などの聖なるものに触れる宗教行動と、それを意味づける複雑なシンボリズムである。舞踊、音楽、言語、劇、絵画彫刻、建築などのあらゆる表現様式が祭祀のために用いられるが、そのおのおのは複雑な歴史的、文化的、宗教的意味を担っている。したがって、その物質的要素である祭具は、実用的目的をもつとともに、古来、その素材、構造、形体などが厳密に規定、伝承され、象徴的に意味づけされて、文化的統合の役割を果たしてきた。しかし、聖なるものと密接にかかわっているので祭祀の対象となり、崇(あが)められる祭具がある一方、宗教的意味づけが忘れられて、実用的道具に化した祭具もある。

[中村恭子]

種類

原初の時代より、自然木、石、岩、水源、山などをめぐり、野外で祭祀が行われてきたことは世界的に認められるが、寺廟(じびょう)、神殿、教会堂などの永続的宗教構築物が存在するに至っても、神霊は祭場に祭祀中来臨するとの信仰が生きている。そこで、神霊を招き、その依代(よりしろ)として祭場に常緑樹、柱、棒、旗などが立てられることが多い。狩猟文化内では、動物の骨、とくに頭蓋骨(ずがいこつ)が神霊の宿るところと信じられ、アイヌはクマ、アメリカ・インディアン部族はスイギュウなどを祭祀の対象とする。また、弓矢も重要な祭具となる。農耕文化内では、稲束、粟穂(あわほ)、麦藁(むぎわら)、トウモロコシ、果実などの自然物から、御幣(ごへい)、削掛(けずりかけ)、鋤(すき)、鎌(かま)などの加工品まで、多種多様の祭具がみられる。神を人間や動物の形に表した画像は各宗教伝統の図像学(イコノグラフィー)の発達に伴い、複雑化、固定化していくが、木、石、骨、金属などの素材そのものも象徴的意味をもつのである。招霊用祭具として、音を発するための太鼓、鐘、鈴、琴、笛、弓など、また、光を発するための松明(たいまつ)、篝火(かがりび)、ろうそく、ランプなどは世界各地で用いられ、香も中国や中近東などで古代より使用されている。したがって、楽器、燭台(しょくだい)、香炉は、ほとんどの宗教の重要な祭具である。

 来臨した神霊に供犠(くぎ)を捧(ささ)げることも広く行われているので、供進用祭具は数多い。供犠を横たえる高壇や机は、石板、れんが、木、金属などでつくられ、犠牲を殺すときに流れる血を受ける溝、穴、容器などが設けられている。キリスト教のミサにおいて聖別されたワインを入れる祭爵(聖杯(カリス))は、元来、キリストの血を受けた器である。わが国では、魚貝類、野菜なども用いられるが、伝統的神供は、稲作文化の特徴である酒と餅(もち)で、土器や木の葉をかたどった器に盛り、高坏(たかつき)、御膳(ごぜん)などにのせて供えられる。籠(かご)が用いられることもあり、器の素材には自然物志向が明らかである。

 来臨した神霊は祭場にとどまらず遊行(ゆぎょう)するとの信仰に基づき、日本では神輿(みこし)、山車(だし)、山鉾(やまぼこ)などが移動用祭具となるが、ヒンドゥー教、キリスト教などの祭りでは、神像、聖者像を乗せた車がみられる。仏教文化圏においては、遊行僧が背負う笈(おい)に仏像、経巻(きょうかん)、須弥山(しゅみせん)などが納められ、三宝の現れである僧は遊行することによって、移動用祭具と似た、地域社会の聖化・浄化の役割を果たしている。

 諸宗教の祭衣や仮面は、未開宗教にみられるような、祭祀中、動物主や穀霊と一体化するための仮装に用いられた獣皮や藁束(わらたば)と同じ意味構造をもつ。また、祈祷(きとう)用祭具としてのロザリオ(キリスト教)や数珠(じゅず)(仏教)などは、珠(たま)の数による記憶装置としての機能を兼ね、イスラム教徒の祈祷用敷物はモスクの聖域を象徴し、ユダヤ教徒の肩掛けと同様に、魔除(まよ)けの機能をももっているのである。このように、祭具は実用性と象徴性、神聖性と世俗性をあわせもつ多面的な、祭祀に用いられる道具や器具である。

[中村恭子]

『マルセル・モース、アンリ・ユベール著、小関藤一郎訳『供犠』(1983・法政大学出版局)』『千葉徳爾著『狩猟伝説』(1975・法政大学出版局)』『山田憲太郎著『香料』(1978・法政大学出版局)』『景山春樹著『神像』(1975・法政大学出版局)』

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普及版 字通 「祭具」の読み・字形・画数・意味

【祭具】さいぐ

祭器。

字通「祭」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の祭具の言及

【道具】より

…これらの道具は人間の文明を飛躍的に向上させただけでなく,道具そのものの発達と道具の使用技術の高度化をもたらした。また宗教的儀式は,超越者ないし意志をもつと考えられた自然との対話の技術であったから,広義の情報伝達のための道具として種々の祭具があった。その多くは生産・生活の道具を象徴化したものであるが,精巧なものや美しいものが多く,技術の発達に貢献した。…

※「祭具」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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