前頭側頭型認知症

内科学 第10版 「前頭側頭型認知症」の解説

前頭側頭型認知症(大脳変性疾患)

(3)前頭側頭型認知症(frontotemporal dementia:FTD)
定義・概念・分類
 前頭側頭型認知症(FTD)は人格変化や行動異常に特徴づけられる症候群であり,大脳の前方部(前頭側頭葉)に限局性変性を示す疾患群に認められる.症候および病理学的違いから,大脳の後方部の障害が目立つAlzheimer病(Alzheimer’s disease:AD)と対比される.
 前頭側頭葉の変性という観点からは,FTDは前頭側頭葉変性症(frontotemporal lobar degeneration:FTLD)に含まれる.FTLDの臨床病型は脳病変部位の機能局在に対応して,FTD,進行性非流暢性失語(progressive non-fluent aphasia:PA),意味性認知症(semantic dementia:SD)の3型がある(図15-6-7).
病因・病理・病態生理
 FTLDには病理学的にさまざまな疾患が含まれるが,それらは凝集し不溶化した蛋白質が神経細胞やグリアに封入体を形成して異常蓄積するという共通の特色を有する.蓄積蛋白質にはタウ蛋白,TDP-43 (transactive response DNA binding protein of 43 kD),FUS(fused in sarcoma)があり,それらに対応して,FTLDはFTLD-Tau,FTLD-TDP,FTLD-FUSの主要3群に分類される(表15-6-1).
 FTLD-Tauには,孤発性のPick病や,遺伝性でタウ遺伝子変異に伴う第17番染色体に連鎖するFTDとパーキンソニズム(frontotemporal dementia and parkinsonism linked to chromosome 17:FTDP-17)などがある.Pick病は1892年Arnold Pickにより前頭側頭葉に限局性の高度萎縮を呈する疾患として報告され,神経細胞内に嗜銀性の封入体(Pick球あるいはPick小体)がみられ,封入体には3リピートタウとよばれるタウアイソフォームが凝集している(図15-6-8A,B).FTLD-TDPはFTLDの約半数を占めるものと考えられており,孤発性のものが多く,その中には運動ニューロン疾患を伴うFTDが含まれている.
疫学
 50~60歳代を中心に発症し,男女差はなく,孤発性,遺伝性の両者の場合がある.有病率では45~64歳の人口10万対15の報告がある.
臨床症候
 早期からの行動障害[自己や社会に対する無関心(自己に無頓着で社会的意識の喪失),脱抑制的徴候(自己中心的で,性的脱抑制,暴力的行動など),口運び傾向(oral tendency),常同的および保続的行動(マンネリ化した行動)など],感情障害(抑うつ,不安,希死念慮,固定観念,妄想,心気症,感情的な無関心,感情移入や共感の欠如,感情鈍麻,自発性低下など),言語障害[発話量減少,常同言語(同じ単語や句の反復),反響言語と保続,後期には無言症]を特徴とし,緩徐な進行を示す.早期から高度の健忘,空間的失見当識,失行はみられず,ADとは対照的である.
検査成績
 頭部CT,MRIで特徴的な前頭側頭葉の限局性萎縮がみられる(図15-6-8C).局所脳血流および糖代謝の低下がSPECTやPETで鋭敏に検出される.遺伝性ではタウ遺伝子などに変異を認める場合がある.
診断・鑑別診断
 FTDの診断は人格変化,行動異常,限局性前頭・側頭葉萎縮を特徴とする臨床,画像所見による.病初期からの記憶障害を主徴とするAlzheimer病を鑑別除外する.FTDの原因疾患(表15-6-1)の診断については,運動ニューロン疾患や大脳皮質基底核変性症などを示唆する所見の有無を検討するが,診断マーカーが未確立であり,確定診断は病理による.
経過・予後
 緩徐進行性で,平均約8年で寝たきり状態になり死亡する.運動ニューロン疾患を有する場合は平均約4年で死亡する.
治療
 根本的な治療法はなく,対症的治療およびケアが中心となる.[山田正仁]
■文献
Josephs KA, et al: Neuropathological background of phenotypical variability in frontotemporal dementia. Acta Neuropathol, 122:137-153, 2011.
Neary D, et al: Frontotemporal dementia. Lancet Neurol, 4:771-780, 2005.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

今日のキーワード

カイロス

宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...

カイロスの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android