日本大百科全書(ニッポニカ) 「動物生理学」の意味・わかりやすい解説
動物生理学
どうぶつせいりがく
animal physiology
生物学の一分科で、動物の個体やその部分のさまざまな機能を自然科学的に研究する学問をいう。研究には、原生動物から人間まで、すべての動物のあらゆる機能が対象となる。この意味では、植物を対象から除外した生理学とほとんど同義語である。しかし普通は、人体機能の解明に重点を置いた、医学の一部門としての生理学に対して、基礎生物学的立場からの研究をさしてこのことばが用いられる。また、多種多様な動物が研究対象となりうる点で、動物生理学を比較生理学と同一視する人もあるが、正しくは、一般生理学的なものから比較生理学的なものまで、広い範囲の立場から行われる研究を包括するものと理解すべきである。
動物生理学の歴史を、生理学の歴史と区別することは不可能に近いが、19世紀後半からヨーロッパを中心に、医学とは独立に、生物学者による動物生理学研究がしだいに盛んになった。日本では、1920年代から東北帝国大学や東京帝国大学などの諸大学で、動物学者による生理学的研究が活発になった。とくに1938年(昭和13)から東京帝国大学理学部動物学教室で動物生理学講座を担当した鎌田武雄(かまだたけお)は、その優れた業績と後進の育成によって動物生理学発展の基礎を築いた。イギリスに学んだ鎌田の研究は、物理化学的方法による一般生理学・細胞生理学的傾向の強いもので、その後の日本の動物生理学研究の方向に大きな影響を与えた。1979年(昭和54)日本動物生理学会が設立され、この分野の研究の中心的学会となっている。
[高橋景一]