改訂新版 世界大百科事典 「包晶」の意味・わかりやすい解説
包晶 (ほうしょう)
peritectic
合金が凝固する場合の凝固形態の一つ。一般には融液が固溶体の周りを包むように反応して,別の固溶体を形成する場合に生ずる結晶。2元系合金については,その状態図が図1に示すようなものである場合に生じる組織である。たとえば組成がX0の合金を液相L状態からゆっくりと冷却すると,温度T1において,液相から,組成α1の固相αが初晶として晶出し,その後固相αの量は増え,その組成はα1からαPへ向かって順次変化する。これとともに液相の量は減少し,その組成はL1からLPに向かって変化する。温度がTPになった直後では,液相LP中に固相αPの粒子が存在するが,この温度で時間の経過とともに
LP+αP─→βP
の反応が起きる。この反応は,液相LPと固相αPとの界面において起こり,図2-aに示すように,固相βPは初晶αPを包むようにして成長する。そこで,この反応を包晶反応といい,生じる組織を包晶という。そしてTPを包晶温度,P点を包晶点という。平衡状態では,反応の終了直後は,固相αPは消失し,液相LPと固相βPとの2相となり,凝固完了後は組成がβ3(=X0)の固相βのみとなる。しかし,実際には,固相内での拡散がきわめて遅いことから,包晶反応はほとんど起こらない。すなわちTPにおいて液相LPは固相αPとはほぼ無関係に凝固し,結果的に,凝固完了後の組織は,図2-bに示すように,組成がβP~β4(>β3)の範囲の固相β中に,組成がα1~αPの範囲の固相α粒が分散した,偏析の著しい組織となる。
執筆者:林 宏爾
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報