固溶体(読み)コヨウタイ(英語表記)solid solution

デジタル大辞泉 「固溶体」の意味・読み・例文・類語

こよう‐たい【固溶体】

複数の物質がまじり合って均一な状態になっている固体合金の多くはこれにあたる。→混晶

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精選版 日本国語大辞典 「固溶体」の意味・読み・例文・類語

こよう‐たい【固溶体】

  1. 〘 名詞 〙 いくつかの異なる化学組成の物質が均質に混合している固体。結晶構造から見た場合には、置換型と侵入型(または割込型)とがある。合金の多くや、大部分造岩鉱物はこれに属する。混晶。〔稿本化学語彙(1900)〕

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改訂新版 世界大百科事典 「固溶体」の意味・わかりやすい解説

固溶体 (こようたい)
solid solution

2種類以上の原子が,ある範囲内において任意の割合で均一に混じり合ってできる結晶。混晶mixed crystalとも呼ばれる。ふつうの化合物(定比化合物)では,たとえば化学式AmBnmn整数)で表されるように,その原子数の比は簡単な整数比をなす。非化学量論的化合物不定比化合物)では,たとえばAxB1-x(0<x<1)のように,原子数の比が整数比からずれている。このxの値すなわち組成の比較的広い範囲にわたって同一結晶構造の相をもつものが固溶体で,xが0と1の間にわたって存在する固溶体を全率固溶体という。合金の多くは金属元素を溶媒とする固溶体である。

 構造的には置換型固溶体と侵入型固溶体の2種がある。A原子の作る結晶格子のすき間にB原子が入り込んでいるものを,A元素を溶媒としB元素を溶質とする侵入型固溶体であるという。A原子の作る結晶格子中で,A原子の占めるべき格子点をB原子が占めているのは,置換型のA元素基1次固溶体という。A元素の結晶でもB元素の結晶でもない結晶格子上に,A原子とB原子がある範囲の割合で混じり合いながら存在している結晶は,置換型の2次固溶体と呼ばれる。ある種の固溶体では熱処理によって格子点上における原子の種類の配列に規則性が生じることがある。このような規則格子の生じた固溶体は規則固溶体あるいは秩序固溶体と呼ばれる。一般の固溶体ではふつうA,B原子の配列に規則性はなく,不規則固溶体あるいは無秩序固溶体と呼ばれている。2次固溶体と金属間化合物をまとめて,1次固溶体に対して,中間相intermediate phaseと呼ぶ。また,金属工学では混晶という場合に,たとえばInxGa1-x・Asのように化合物結晶の特定の格子点が2種以上の原子によって占められるものをさすこともある。

 固溶体の諸性質は組成とともに連続的に変化する。固溶元素による結晶の強度の上昇は固溶体硬化(強化)と呼ばれる。
合金
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百科事典マイペディア 「固溶体」の意味・わかりやすい解説

固溶体【こようたい】

2種以上の物質が互いに溶け合い,全体として均一な相をなす固体混合物。非金属結晶の場合には混晶ということが多い。構造上,溶媒の原子または分子のつくる結晶格子の間隙(かんげき)に溶質の原子または分子が侵入した侵入型と,結晶格子をつくる原子または分子が他の原子または分子で置換された置換型に大別される。合金,造岩鉱物に多くみられ,一般に金属同士の固溶体は置換型で,原子半径が溶媒金属のそれに比べて小さい水素,炭素,窒素,ホウ素などの非金属原子が固溶する場合には侵入型となる。金属原子間の配列に規則性がある場合は金属間化合物とみなされることが多い。
→関連項目合金侵入型化合物同型置換ニッケル合金メカニカル・アロイング溶液

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「固溶体」の意味・わかりやすい解説

固溶体
こようたい
solid solution

2種以上の物質が混合して完全に均一な固相となる固体をいう。ある結晶相の格子点にある原子がまったく不規則に別の原子と置換するか、あるいは格子の間隙(かんげき)に別の原子が侵入したものの2種がある。前者を置換型、後者を侵入型の固溶体とよぶ。二成分あるいは三成分型の金属で結晶格子の特定の位置に規則的に別の成分が置換しているときは固溶体とはいわず、金属間化合物という。

 置換型の固溶体は多くの合金や塩化カリウムKClと臭化カリウムKBrの混合物にみられる。塩化ナトリウム型の結晶格子について考えてみると、陽イオンの格子点にはKがあり、陰イオンの格子点にはClとBrが不規則にある。KClとKBrは同一の結晶格子をもち、その大きさがほぼ等しいため、容易に固溶体をつくる。すなわち、互いに置換する原子の大きさがあまり異ならないことが必要である。一方、侵入型の固溶体は、溶質としての成分が室温において結晶でない水素、酸素、窒素などにみられる。このことは、侵入成分の原子が格子点にある原子に比べてかなり小さいことを意味している。鉄に入っている炭素の場合もこれに属する。

 ある固体の結晶に別の元素の原子が溶ける条件は、関係する原子の大きさ、価電子の数、結晶形などである。このように固溶にもおのずから限界があることがわかる。

[吉田俊久]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「固溶体」の意味・わかりやすい解説

固溶体
こようたい
solid solution

結晶内で複数の成分が均一かつ無秩序に分布した単相の固体。金属は結晶質なので,金属元素から成る固溶体では格子点の溶媒原子が溶質原子で置換される (これを置換型固溶体という) 。しかし,溶質が水素,窒素,酸素,炭素,ホウ素など,金属に比し小さい非金属原子の場合は,それが格子のすきまに入って固溶体をつくる (侵入型固溶体) 。どちらも溶質原子の位置はまったく無秩序で,溶質原子周辺は格子ひずみを生じて硬化の原因になる。置換型の場合,溶媒と溶質が同じ型の結晶格子で原子寸法差が小さければ,格子のひずみは小さく固溶限が大で,ときには Au-Ag,Au-Cu,Cu-Niのように全率固溶体 (→合金の状態図 ) をつくる。侵入型は格子ひずみが大きいため固溶限は小さく,溶質が増加すると格子型の異なる化合物が現れる。固溶体合金は硬化を示すだけではなく,電気伝導度,熱膨張係数も顕著に下がり,磁気的性質も変化するので,工業的に利用される。純金属を母相とする固溶体を1次固溶体またはα固溶体といい,中間相 (→金属間化合物 ) の固溶体相は状態図上で順にβ,γ,δ,…とギリシア文字で記号する習慣である。固溶体は金属だけでなく,塩類同士でも形成されるが,これは特に混晶といって区別される。

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化学辞典 第2版 「固溶体」の解説

固溶体
コヨウタイ
solid solution

異なる物質(おもに固体どうし)が互いに均一に溶けあった固体.二元合金や類似した2種類の塩類の間でしばしばみられる.2液の混合溶液の場合と同様,連続した割合で溶け合うが,全組成にわたって固溶体をつくる場合と,限られた組成範囲でのみ固溶体をつくる場合がある.前者の場合には,融点と固相の組成の関係を表す融点曲線(固相線)と,凝固点と液相の組成の関係を表す凝固点曲線(液相線)が単調に変化する場合と極小または極大を示す場合とがある.いずれの場合にも液相線は固相線よりも上に位置する.これは液相では固相よりも,その添加により凝固点を低下させる成分を多量に含むことを意味する.固溶体の内部構造には,一方の成分原子(原子団)の位置をほかの成分の原子(原子団)が置換する場合(例:Ni-Cu合金)と,一方の成分(溶媒)の結晶格子間にほかの成分原子が位置する場合(例:炭素を溶かした金属Ni)とがある.

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岩石学辞典 「固溶体」の解説

固溶体

二種類またはそれ以上の異なった物質が互いに均一に溶け合った結晶質の固相.二つ以上の元素または化合物が混合する場合に,一つの成分の原子や分子が他の成分の構造の中に入り込んで,平衡状態では単一の相をなす固体混合物,結晶体が他種の結晶体を溶かし込んだものと見なしてよい.しばしば同形(isomorphous)の化合物からなっているが,同形は必要な条件ではない.このような混合物の比率は均質性をなくすことなく全組成にわたって固溶体をつくる場合と,ある特定の限られた組成範囲で固溶体をつくる場合がある.多くの普通の火成岩の造岩鉱物は複雑な固溶体を作り,長石,輝石,角閃石などの例がある[Bowen : 1928,片山ほか : 1970,長倉ほか : 1998].

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世界大百科事典(旧版)内の固溶体の言及

【混晶】より

…2種類以上の物質が原子,または分子のレベルで均一な溶体となった結晶をいう。金属学では同じ意味のことが固溶体solid solutionと呼ばれ,混晶の語はおもに鉱物学で用いられてきた。まだX線構造解析が発展する以前に作られた言葉で,2種類以上の結晶の混合物,あるいは共晶などと誤解されやすいので,むしろ固溶体と統一して使うべきであろう。…

【合金】より

…2種類以上の元素の混り物である金属の総称。狭義には金属的性質を示す固溶体をいう。1種類の金属元素のみを成分とする純金属は概念としては合金と対立するものであるが,完全に純粋な金属は実在しない。…

【混晶】より

…2種類以上の物質が原子,または分子のレベルで均一な溶体となった結晶をいう。金属学では同じ意味のことが固溶体solid solutionと呼ばれ,混晶の語はおもに鉱物学で用いられてきた。まだX線構造解析が発展する以前に作られた言葉で,2種類以上の結晶の混合物,あるいは共晶などと誤解されやすいので,むしろ固溶体と統一して使うべきであろう。…

※「固溶体」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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