2種類以上の原子が,ある範囲内において任意の割合で均一に混じり合ってできる結晶。混晶mixed crystalとも呼ばれる。ふつうの化合物(定比化合物)では,たとえば化学式AmBn(m,nは整数)で表されるように,その原子数の比は簡単な整数比をなす。非化学量論的化合物(不定比化合物)では,たとえばAxB1-x(0<x<1)のように,原子数の比が整数比からずれている。このxの値すなわち組成の比較的広い範囲にわたって同一結晶構造の相をもつものが固溶体で,xが0と1の間にわたって存在する固溶体を全率固溶体という。合金の多くは金属元素を溶媒とする固溶体である。
構造的には置換型固溶体と侵入型固溶体の2種がある。A原子の作る結晶格子のすき間にB原子が入り込んでいるものを,A元素を溶媒としB元素を溶質とする侵入型固溶体であるという。A原子の作る結晶格子中で,A原子の占めるべき格子点をB原子が占めているのは,置換型のA元素基1次固溶体という。A元素の結晶でもB元素の結晶でもない結晶格子上に,A原子とB原子がある範囲の割合で混じり合いながら存在している結晶は,置換型の2次固溶体と呼ばれる。ある種の固溶体では熱処理によって格子点上における原子の種類の配列に規則性が生じることがある。このような規則格子の生じた固溶体は規則固溶体あるいは秩序固溶体と呼ばれる。一般の固溶体ではふつうA,B原子の配列に規則性はなく,不規則固溶体あるいは無秩序固溶体と呼ばれている。2次固溶体と金属間化合物をまとめて,1次固溶体に対して,中間相intermediate phaseと呼ぶ。また,金属工学では混晶という場合に,たとえばInxGa1-x・Asのように化合物結晶の特定の格子点が2種以上の原子によって占められるものをさすこともある。
固溶体の諸性質は組成とともに連続的に変化する。固溶元素による結晶の強度の上昇は固溶体硬化(強化)と呼ばれる。
→合金
執筆者:伊藤 邦夫
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2種以上の物質が混合して完全に均一な固相となる固体をいう。ある結晶相の格子点にある原子がまったく不規則に別の原子と置換するか、あるいは格子の間隙(かんげき)に別の原子が侵入したものの2種がある。前者を置換型、後者を侵入型の固溶体とよぶ。二成分あるいは三成分型の金属で結晶格子の特定の位置に規則的に別の成分が置換しているときは固溶体とはいわず、金属間化合物という。
置換型の固溶体は多くの合金や塩化カリウムKClと臭化カリウムKBrの混合物にみられる。塩化ナトリウム型の結晶格子について考えてみると、陽イオンの格子点にはKがあり、陰イオンの格子点にはClとBrが不規則にある。KClとKBrは同一の結晶格子をもち、その大きさがほぼ等しいため、容易に固溶体をつくる。すなわち、互いに置換する原子の大きさがあまり異ならないことが必要である。一方、侵入型の固溶体は、溶質としての成分が室温において結晶でない水素、酸素、窒素などにみられる。このことは、侵入成分の原子が格子点にある原子に比べてかなり小さいことを意味している。鉄に入っている炭素の場合もこれに属する。
ある固体の結晶に別の元素の原子が溶ける条件は、関係する原子の大きさ、価電子の数、結晶形などである。このように固溶にもおのずから限界があることがわかる。
[吉田俊久]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
異なる物質(おもに固体どうし)が互いに均一に溶けあった固体.二元合金や類似した2種類の塩類の間でしばしばみられる.2液の混合溶液の場合と同様,連続した割合で溶け合うが,全組成にわたって固溶体をつくる場合と,限られた組成範囲でのみ固溶体をつくる場合がある.前者の場合には,融点と固相の組成の関係を表す融点曲線(固相線)と,凝固点と液相の組成の関係を表す凝固点曲線(液相線)が単調に変化する場合と極小または極大を示す場合とがある.いずれの場合にも液相線は固相線よりも上に位置する.これは液相では固相よりも,その添加により凝固点を低下させる成分を多量に含むことを意味する.固溶体の内部構造には,一方の成分原子(原子団)の位置をほかの成分の原子(原子団)が置換する場合(例:Ni-Cu合金)と,一方の成分(溶媒)の結晶格子間にほかの成分原子が位置する場合(例:炭素を溶かした金属Ni)とがある.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
…2種類以上の物質が原子,または分子のレベルで均一な溶体となった結晶をいう。金属学では同じ意味のことが固溶体solid solutionと呼ばれ,混晶の語はおもに鉱物学で用いられてきた。まだX線構造解析が発展する以前に作られた言葉で,2種類以上の結晶の混合物,あるいは共晶などと誤解されやすいので,むしろ固溶体と統一して使うべきであろう。…
…2種類以上の元素の混り物である金属の総称。狭義には金属的性質を示す固溶体をいう。1種類の金属元素のみを成分とする純金属は概念としては合金と対立するものであるが,完全に純粋な金属は実在しない。…
…2種類以上の物質が原子,または分子のレベルで均一な溶体となった結晶をいう。金属学では同じ意味のことが固溶体solid solutionと呼ばれ,混晶の語はおもに鉱物学で用いられてきた。まだX線構造解析が発展する以前に作られた言葉で,2種類以上の結晶の混合物,あるいは共晶などと誤解されやすいので,むしろ固溶体と統一して使うべきであろう。…
※「固溶体」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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