翻訳|segregation
複数の元素(A,B,C,……)から成る固体において,たとえばB元素が一様に分布していない状態にあるとき,B元素は偏析しているという。偏析の型は,平衡状態で生じる偏析と,平衡状態となっていないために生じる偏析の二つに大別できる。前者の一つは,溶質原子の一部が母相中の転位や結晶粒界などの欠陥部に凝集すると,それぞれ転位のひずみエネルギーや結晶粒界エネルギーなどが減少する場合に,安定に生じる偏析であり,とくに平衡偏析と呼ばれる。また,Fe-P,Fe-S系のように母相中への溶質の溶解度がきわめて小さい合金系では,溶質原子の含有量が少ない場合,母相の初晶の粒界部にのみ溶質が晶出し,粒界偏析が生じる。後者の型の偏析は,溶質原子の母相中への溶解度が母相の状態(液相であるか固相であるか)や温度によって変化し,かつ溶質原子の拡散が十分に速く起こらない場合に生じるものである。たとえば図のA-B2元系合金の状態図において,組成がX0の合金を液相状態から冷却した場合に生じる固相の組成は,平衡状態が実現されるならば,温度低下とともにX1からX2(=X0)へと順次変化し,最終的にすべての場所の組成がX0の合金となる。しかし,実際には固相内での原子の拡散は一般にきわめて遅いことから,普通に冷却した場合には晶出時の組成がほぼそのまま維持され,晶出時期が遅い部分ほどB元素濃度は大となる。つまり偏析が生じる。この型の偏析は,インゴット全域にわたるマクロ偏析(正常偏析,逆偏析,重力偏析)や結晶粒領域内でのミクロ偏析(核偏析,樹枝状偏析,セル状偏析)などに細分される。偏析は合金の性質を一般に劣化させるので,焼きなましや鍛造の処理を施して解消を図る。なお,偏析現象を積極的に利用した固体精製法にゾーンメルティング法がある。
執筆者:林 宏爾
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
合金をつくるには、成分金属を液体状態で溶かし合わせてから凝固させる。この凝固の際に、最初に凝固した部分と、あとで凝固した部分では組成が異なるのが普通であり、その結果、合金の組成に不均一性が生じる。これを凝固偏析という。凝固偏析の程度は、合金の種類や凝固条件によってかなり異なる。大型の材料では、表面部と中心部とで、肉眼的にも判別できるほどの著しい偏析(マクロ偏析)が生じることがある。一方、材料中の個々の結晶を顕微鏡で観察すると、結晶の中心部と外周部との間に組成の相違(ミクロ偏析)が見られる。これらの凝固偏析は、適当な温度で長時間加熱して、原子の相互拡散によって軽減される。これを均質化焼きなましといい、健全な材料をつくるのに必要な処理である。
なお、凝固偏析以外に、粒界平衡偏析(略して粒界偏析)という特殊な偏析が生じる。これは、結晶粒の境界に不純物原子が寄り集まる現象で、結晶粒の境界では原子が整然と配列していないためにおこるものである。この偏析は均質化焼きなましを行っても軽減されないで、逆に、不純物がさらに寄り集まることさえある。金属材料が結晶粒の境界から破壊するのは、粒界偏析が原因である場合が多い。
[西沢泰二]
一つの結晶内あるいは鋳物や鋳塊全体において,化学組成が不均一な状態.溶融合金が凝固する場合,最初に凝固する部分と後から凝固する部分とで化学組成が異なるために生じる.鋳物や鋳塊では,最終凝固部の結晶粒界に不純物および融点の低い相が集まり,合金元素の固体内拡散が非常に遅いため,不均一な分布のまま固体内に残存する.偏析は合金系の固相線(solidus)と液相線(liquidus)との間に間隔があるために起こる現象で,その間隔が広い合金ほど偏析はいちじるしい.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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