改訂新版 世界大百科事典 「北ドイツ平野」の意味・わかりやすい解説
北ドイツ平野 (きたドイツへいや)
Norddeutsches Tiefland
ドイツ北部に東西に広がる平野。ドイツ中部山地と北海,バルト海の間にあり,西はオランダ,東はポーランドの平野に続く。全体としては構造平野であるが,洪積世の3回の寒冷期にスカンジナビアを中心とする大陸氷に覆われたので,おもに北方からもたらされた砂,礫,粘土,レス(黄土)などの氷河堆積物からなる。その厚さは100m以上にも達し,基盤の中生代,第三紀の地層はこの下にあって,地表に露出する部分はごく少ない。この地域は平野といっても一様に平たんではなく,標高150mをこえる部分もあり,ゆるやかな起伏に富んでいる。氷期に融氷水が流れた幅広い原流谷が南東から北西へ向かって幾筋もあり,そのあとに現在はエルベ川,ウェーザー川やその支流が流れて,沿岸には沖積低地が形成されている。平野にはベルリン,ハンブルクなどの大都市も存在するが,一般に農牧業地域で,人口希薄な地域となっている。
北ドイツ平野は,(1)バルト海沿岸の新期氷堆石地域,(2)その南西に広がる旧期氷堆石地域,(3)南部のレス地域に分けられる。(1)は最後の氷期に堆積したゆるやかに起伏する底堆石地域で,上部には漂移泥灰土の表面が風化した肥沃な褐色のローム質土壌がのり,コムギ,エンバク,ライムギなどが生産されている。海岸にはフィヨルドが発達し,キール,リューベックなどの天然の良港がある。内部は列状に終堆石が並び,多数の湖沼や湿原がある。(2)の地域では表層は浸食と溶脱が進み,砂質で農地に適さず,森林やハイデ(荒野)になっている所が多い。この種のやせた土地はゲーストと呼ばれ,マルク地域,リューネブルク・ハイデLüneburger Heideなどがその典型である。幅20kmにも及ぶ原流谷底は沼沢地,湿原となり,かつては交通の障害であったが,ここは運河の掘削が容易で,現在は河川交通に重要な役割を果たしている。(3)はゲーストと中部山地の間の平野南縁部に分布する。レスは軽い肥沃な土壌でコムギ,テンサイ,野菜類などの栽培に適し,ここでは集約的農業が行われている。
執筆者:武田 むつみ
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報