病気からの回復や社会復帰を助けるため、患者や家族のあらゆる相談にのり、心理的、経済的、社会的問題の解決を図る医療分野の専門職。略称MSW。正式な資格はないが、多くは社会福祉士があたり、おもに病院で活躍している。
ソーシャルワーカーの原型は、16、17世紀のイギリスの教会による貧民救済活動とされる。産業革命や都市化により慈善活動の必要性が高まり、アメリカでは19世紀末ごろからソーシャルワーカーになるための学校や専門職が登場し、医療の発達につれこの分野で重要性が増した。
厚生労働省は2002年(平成14)、局長通達で「医療ソーシャルワーカー業務指針」を出した。これによると、療養中および退院の援助、経済的問題への援助、受入施設、社会復帰に至るまで広範な範囲での援助を規定している。医師や看護師の活動は医療内容に特化しており、そうした知識はほとんどなく、医療ソーシャルワーカーの存在は患者には頼もしい。チーム医療スタッフとして各専門職とも連携する。ただし、待遇は十分とはいえない。診療報酬では社会福祉士の業務分(介護支援、退院調整協力、癌(がん)患者リハビリテーション計画作成協力、栄養サポートなど)が加算請求できるようになり、日本病院機能評価機構は相談室の設置などで評価しているが、まだまだ賃金の面などでも報われているとはいえない。
なお、社会福祉士は「社会福祉士及び介護福祉士法」による国家資格で、大学や短期大学で一定の専門科目を履修し、国家試験に合格する必要がある。
[田辺 功]
…前者は,医療費や生活費に困るというような経済的な理由などのために治療が受けられないことがないように,医療保険や公的扶助,医療費公費負担制度などの形で行われる社会福祉,社会保障,公衆衛生などの諸施策をさす。後者は,保健・医療に関連して生じる患者・家族の精神的,社会的,経済的な問題をとりのぞくために,主として個別的に行われる医療ソーシャル・ワーカーmedical social workerによる対人サービス活動をさすものとしてとらえられる。医療ソーシャル・ワーカーの活動は,19世紀末から20世紀初めにイギリスやアメリカで始められたもので,日本でも,第2次大戦前聖ルカ病院(現,聖路加国際病院)や済生会病院などで行われていたが,一般的には戦後になって普及した。…
…しかし病院や保健所における医療福祉士medical social workerについては資格制度がないので,患者や障害者のリハビリテーションのために,チームワークの一員として医療の場で働く専門職の必要が説かれている。医療ソーシャル・ワーカーの任務は,各種の社会福祉制度やサービスなどを活用して患者とその環境を調整し,安心して療養生活を送ることができるよう援助するとともに,患者の健康の回復,社会復帰を助けることにある。患者や障害者の問題点解決のためには,リハビリテーション医療チームの重要な職種であるから,そのための教育カリキュラムも提案されている。…
※「医療ソーシャルワーカー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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