改訂新版 世界大百科事典 「十二人の怒れる男」の意味・わかりやすい解説
十二人の怒れる男 (じゅうににんのいかれるおとこ)
12 Angry Men
1957年製作のアメリカ映画。先鋭的な舞台の演出家,そしてとくにテレビの生放送ドラマのディレクターとして知られていたシドニー・ルメットの初の映画演出作品で,レジナルド・ローズの脚本をルメット自身が演出したテレビドラマの映画化。主役のヘンリー・フォンダが,ローズとともに製作を担当。父親を刺殺した容疑で起訴された少年にたいする評決をめぐって,ニューヨーク市民の中から任意に選ばれた12人の陪審員が論議をかさね,予備投票による1対11の有罪から12対0の無罪へと評決が逆転する過程を克明に描く。アメリカ民主主義の一つのシンボルである陪審制度をめぐる,〈法廷ドラマcourtroom drama〉のように組み立てられたディスカッションドラマである。ドラマの時間と映画の上映時間が一致するのも特色の一つで,冒頭と終幕の数シーンを除き,すべて陪審室の内部で展開される。バストサイズを中心にした演出と空間的な制約を感じさせないカメラワーク(撮影はジャン・ビゴのカメラマンとして知られるボリス・カウフマン)で,精密に計算された397のカットによる構成は批評家の間で高く評価された。興行的にはテレビの隆盛に対抗して〈大作〉が流行していた1950年代後半に,製作費34万ドル,撮影実数17日でつくられた白黒映画であったが,ニューヨークのキャピトル劇場でのロードショーは1週間で打ち切られるほどの不入りであった。しかしベルリン映画祭をはじめ諸外国で好評を得,またアカデミー作品賞,監督賞,脚本賞にノミネートされた。この作品の前後に,《マーティ》(1955),《独身者のパーティ》(1957)のデルバート・マン,《大会社の椅子》(1956)のフィールダー・クック,《孤独の青春》(1957)のジョン・フランケンハイマーなど,テレビ出身のいわゆる〈ニューヨーク派〉が台頭し,ルメットとともにハリウッドで脚光を浴びることになる。
執筆者:柏倉 昌美
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報