従来は標準原価による管理、すなわちコスト・コントロールcost controlの意味に用いられてきたが、1970年ころからは、より総合的な経営全般の計画・管理を含むコスト・マネジメントcost managementの意味に用いられるようになっている。伝統的な意味での原価管理は、20世紀初頭におけるF・W・テーラーの科学的管理運動などに触発されて今日まで急速な展開をみせた標準原価計算の発展と切り離して考えることはできない。すなわち、旧来の原価管理(原価統制)の実体は、標準原価による能率管理、さらに具体的にいえば標準原価差異分析による事後的原価統制とほぼ同様のものであった。日本の「原価計算基準」は1962年(昭和37)に大蔵省企業会計審議会(2001年金融庁に移管)が公表しているが、この「原価計算基準」が、原価管理を「原価の標準を設定してこれを指示し、原価の実際の発生額を計算記録し、これを標準と比較して、その差異の原因を分析し、これに関する資料を経営管理者に報告し、原価能率を増進する措置を講ずることである」と定義しているとおりである。
ところが1960年代ころから、経営戦略の推進に不可欠な設備投資活動の活発化により、原価に占める固定的なコスト(キャパシティ・コスト)が増加するとともに、経済情勢的にも従来にない型のインフレーションに遭遇するなど、質の異なった社会環境への対応が問題化してきて、次のような要請が新たに生じてきた。(1)計画段階すなわち事前でのコントロール、(2)一定水準での原価維持ばかりでなく、積極的な原価引下げ技法の開発、(3)原価を発生させる行動そのものの管理、(4)製造以外の企業活動コストのコントロール。
このような社会的要請を背景として、1966年(昭和41)に通商産業省(現経済産業省)産業構造審議会は、「コスト・マネジメント――原価引下げの新理念とその方法」を答申し、現代的な原価管理の概念として「コスト・マネジメント」を提唱し、これを次のように定義した。すなわち「コスト・マネジメントとは、利益管理の一環として、企業の安定的発展に必要な原価引下げの目標を明らかにするとともに、その実施のための計画を設定し、これが実現を図るいっさいの管理活動をいう」。ここでは、第一に、原価統制に対応する概念として原価計画の重要性が強調されている。原価計画は、この場合、長期と短期に区別された利益目標と調和しなければならない。第二に、標準設定による原価維持とともに、とくに不況期においては、積極的な原価引下げの理念と技法が開発されなければならないことが強調されている。これらのすべてが包含されて初めて、真の原価管理と称することができ、これをコスト・マネジメントという、としている。そしてこの理念の具体化のために、伝統的な標準原価計算や予算統制(予算管理)に加え、標準直接原価計算、オペレーションズ・リサーチ(OR)、インダストリアル・エンジニアリング(IE)、価値分析、特殊原価調査などが紹介され、スタッフ組織としての原価管理課のあり方が解説されている。1980年ころからは、原価管理の対象を幅広く求めて、ライフサイルクル・コスティング、活動基準原価計算(ABC)、さらに企画・設計段階における原価の絞込み活動である原価企画などの手法を開発している。
[東海幹夫]
『松本雅男著『原価管理』(1970・白桃書房)』▽『小林靖雄著『総合原価管理』(1972・森山書店)』▽『西沢脩著『コスト・マネジメント』(1974・白桃書房)』▽『佐藤正雄著『原価管理の理論――管理会計へのコスト・アプローチ』(1993・同文舘出版)』▽『佐藤正雄著『原価管理会計――管理会計の手ほどき』(2004・同文舘出版)』▽『東洋ビジネスエンジニアリング編『図解でわかる生産の実務 原価管理』(2007・日本能率協会マネジメントセンター)』
原価データの標準値や実際値を手がかりにしながら,全社的な原価引下げ計画との照応において,主として製造活動に対する各管理者の執行活動を計数的,間接的に統制する一連の手続。予算管理とともに,管理会計の代表的な適用領域である。それは,伝統的には原価統制cost controlと同義として理解されてきた。すなわち,標準原価計算や標準直接原価計算などの手段を利用し,達成目標としての標準原価を設定して,工場の各管理者の日常的な指揮監督活動に方向を与え,かつ標準原価と実際原価との差異を測定・分析して,不利差異を解消する修正活動を指示することを期待されてきたのである。そこでは,(1)標準原価の科学的設定,(2)各管理者の統制範囲に対応した達成目標の指示,(3)原価差異の迅速な報告,(4)原価差異原因の分析,(5)原価意識の高揚,(6)原価管理組織の整備,などが実践的に解決されねばならない。とりわけ,製造工程それ自体の標準化,材料・部品などの規格化,各管理者の標準設定への積極的な参加を前提にして,インダストリアル・エンジニアリング(IE)の諸方法を適用した標準価格や標準消費量の科学的な設定が重要な課題となる。
しかし近年の原価管理は,標準原価や実際原価による原価統制だけではなく,全社的な原価引下げ計画それ自体の設定にも注目する。原価計画cost planningの強調である。そこでは,伝統的な原価統制が前提にしてきた所与のキャパシティ条件の変更をも含めて,製造直接費,製造間接費,販売費,一般管理費など,企業の全領域において発生する原価・費用について,調整のとれた引下げ計画が設定されねばならない。製品設計,材料選択,設備投資,在庫投資,製造方法,調達物流,販売物流などをめぐって,各種の計量的分析技法を適用しながら,原価・費用水準を引き下げる実施可能な代替案が探求・選択・決定される。そのうえで原価統制が実施されるのである。
→管理会計
執筆者:津曲 直躬
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…財務諸表論は会計学の基本的な領域なので,これを会計学ということがある。(c)原価計算は企業の生産物との関連において原価を計算するものであり,その目的は,財務諸表の作成に必要な原価資料の提供,原価管理に必要な原価資料の提供,価格計算に必要な原価資料の提供,予算管理に必要な原価資料の提供,経営の基本計画の設定に必要な原価情報の提供等である。上記第1の目的(財務諸表の作成に必要な原価資料の提供)は,損益計算書上の売上原価や貸借対照表における流動資産のうち,原材料,仕掛品,半製品,副産物等の期末在高が原価計算によって算定されることを意味している。…
…費用は期間損益計算上の概念で,原価も費用も経済的資源の消費ではあるが,原価はこれを給付単位ごとに把握するのに対し,費用は企業全体につき期間的にこれを把握する点で異なる。
[原価管理用の原価]
原価管理のためには,原価を製品別に集計しても役立たず,製造第1課など,原価責任センター別に集計しなければならない。また原価の実際発生額を責任センター別に集計するだけでは不十分で,あらかじめ科学的に作業の物量標準を定め,それに基づいて原価の達成目標を標準原価として指示しておき,標準原価と実際原価とを比較して差異を計算し,差異の発生原因を管理可能差異と管理不能差異とに分析し,改善策を講ずることが効果的である。…
…(6)設備管理 機械設備を最も効率的に使用するための計画・統制をいい,機械類が故障しないように予防保守することと,最短時間で修理復旧させることに分かれる。(7)原価管理 工程ごとに与えられた予算につき実績の状況を把握比較し,改善するための計画・統制をいう。【阿部 圭】 なお労働者が使用者の指揮・命令を拒否し,自主的に生産を管理することも生産管理という(〈生産管理闘争〉の項参照)。…
※「原価管理」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
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