原価計算基準(読み)げんかけいさんきじゅん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「原価計算基準」の意味・わかりやすい解説

原価計算基準
げんかけいさんきじゅん

一般には1962年(昭和37)11月8日付けで大蔵省企業会計審議会(2001年より金融庁移管)より中間報告の形で公表された「原価計算基準」をいうものと理解されている。この原価計算基準は、1949年に、日本経済の健全かつ速やかな回復と発展のために制定された「企業会計原則」の一環として、とくに原価概念とその計算方法に関して規定したものである。企業会計原則は、企業における外部報告会計の実務上に慣習として発達したもののなかから、一般に公正妥当と認められる考え方を要約した財務会計の基準であるから、原価計算基準の中心的役割も、当然ながら、財務諸表作成のために必要な真実の原価を算定する基準にある。しかしながらこの原価計算基準は、単に財務会計的目的達成のためばかりでなく、当時の原価計算実務の啓蒙(けいもう)的指針となるように、管理会計的ないくつかの目的をも同時に達成しようとした、諸外国に例のないかなり独特な性格をもっている。すなわち、この原価計算基準では、標準原価計算制度の導入による原価管理(コスト・コントロール)や、全社的な利益計画としての予算編成およびその統制のために原価に関する資料を提供すること、さらには調弁価格などの設定のために必要な原価資料を提供することなどが、重点相違はあるが、相ともに達成されることを目的としている。ひとことでいえば、この原価計算基準は、財務会計機構と有機的に結合して常時継続的に行われる、いわゆる原価計算制度の基準という特徴をもっている。

 1980年代ころから、企業会計原則や商法・会社法などの法規制が大幅に改正されたことや、企業における現実の実務にコンピュータが導入され、原価に関する関心が未来原価的なものを含む特殊原価にも向けられ始めたことなどによって、原価計算基準をより現状に合ったものにすべきであるという声も高まっている。

[東海幹夫]

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改訂新版 世界大百科事典 「原価計算基準」の意味・わかりやすい解説

原価計算基準 (げんかけいさんきじゅん)
cost accounting standards

企業の原価計算は,棚卸資産の評価および売上原価の決定を通じて,貸借対照表と損益計算書とを適正に作成するための基礎を提供し,価格の形成において中心的な役割を果たし,また経営管理に不可欠な情報を提供するなど,社会経済上きわめて重要な会計制度である。日本では第2次大戦後,公定価格政策との関連で,製造工業原価計算要綱が企業の原価計算制度の大綱につき指針を提供した。またアメリカでは,原価計算基準審議会Cost Accounting Standards Board(CASB)が,政府関係購入価格との関連で,原価計算制度の指針を定めている。日本では,戦後の産業再建が進むにつれて,企業の原価計算制度に経営管理への効用という面からの見直しが求められるようになり,かつ企業会計原則との関連で,適正な期間損益の計算の基礎となる原価計算の基準の必要が認められることになったため,企業会計審議会は1962年に〈原価計算基準〉を設定公表した。同基準については,企業会計原則の一環をなしていることが強調され,かつ慣行のうちから一般に公正妥当と認められるところを要約するという考え方がとられた。しかし,その後の内外における学術的研究および実践的経験をとりいれて,企業の経営管理上の要請にいっそうこたえうるように,その見直しを行うべきだとの主張も,近年強くなっている。
会計原則 →管理会計
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「原価計算基準」の意味・わかりやすい解説

原価計算基準
げんかけいさんきじゅん
cost accounting standards

企業が行なう原価計算の実務の中に慣習として発達したものの中から,一般に公正・妥当と認められたところを要約することによって成文化された原価計算の指針。日本では 1962年に大蔵省の企業会計審議会によって制定されて以来,企業が財務諸表の作成や原価管理など種々の目的で原価計算を行なう場合に,準拠すべき基本的な枠組みを明らかにした実践規範として利用され,現在に引き継がれている。

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百科事典マイペディア 「原価計算基準」の意味・わかりやすい解説

原価計算基準【げんかけいさんきじゅん】

企業の原価計算の慣行のうちから,一般に公正妥当と認められるものを大蔵省企業会計審議会が成文化したもの(1962年設定)。実際原価計算制度と標準原価計算制度とに関する詳細な手続を規定する。企業の原価計算を,社会的承認を得た一定の秩序の下に置くことを目的としている。

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会計用語キーワード辞典 「原価計算基準」の解説

原価計算基準

原価計算するときの唯一のルールで企業が原価計算を行う場合は、必ずこのルールに則ってやらなくてはならない。財務諸表の作成、原価管理、利益管理などの異なる目的を達成させるため一定の計算秩序を保つために、作られました

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