財務会計とともに企業会計の二大領域を構成している。財務会計が企業外部の利害関係者(株主など)に対して報告する財務諸表の作成理論を主たる研究テーマとしているのに対して、管理会計は、企業内部の経営者あるいは管理者のマネジメント活動に資する会計情報あるいはデータの作成方法を研究する。内部報告会計ともよばれる。
[東海幹夫]
今日のように財務会計と対置させる管理会計の成立は、原価計算の発展と不可分の関係にある。すなわち、産業革命期を経た19世紀の欧米経済は、高度な設備投資戦略による経営規模の拡大により間接費配賦を伴う原価計算を確立させる基盤をつくった。そして、20世紀初頭のF・W・テーラーの科学的管理法の思想と相まって、事前計算を含むコスト・コントロール用具として標準原価計算制度を、さらには包括的コントロール手法としての予算統制(後の予算管理)を成立させ、管理会計論の基盤をつくった。その後、第一次世界大戦後の不況期を経たことを重要な契機として、損益分岐点分析、直接原価計算、変動予算など、今日の管理会計技法の中心的テクニックを導入することになった。第二次世界大戦後は、数学、統計学、さらには心理学などとの学際的結合により、意思決定など未来計算の手法に目覚ましい発展を示している。
[東海幹夫]
管理会計は、観点の相違によって次のように体系化することができる。
(1)適応領域別に、製造管理会計、販売管理会計、財務管理会計、研究開発管理会計、物流管理会計などに区分する。
(2)マネジメント機能別に、計画会計と統制会計とに区分する。
(3)マネジメント内容別に、意思決定会計と業績管理会計とに区分する。
(1)の体系化は、管理会計の実践上、自発的に要請されるものであり、わかりやすい。これに対して(2)と(3)は、マネジメントの内実をどのように切断するかという点で密接な関係をもつものである。
意思決定会計とは、経営管理者各階層において行われるさまざまな意思決定に役だつ有益な会計データの提供を目的とし、設備投資計画を中心とする長期的、戦略的、基本構造的な特徴をもつものと、製品の組合せや特注価格の設定問題などの短期的、戦術的、日常業務的な特徴をもつものとに区別される。一方、業績管理会計は、事前計算としての予算編成から事後計算としての差異分析や業績評価などまで、通常は1年間といった期間を基礎としたかなり制度的な性格をもった会計である。この会計は、業績管理上の会計データと組織における権限と責任とを密接に関係づけることによって、より大きな効果を発揮し、これをとくに責任会計と称している。
[東海幹夫]
管理会計技法のうちもっとも古くから利用されている技法は標準原価計算であるが、このような原価管理上の手法は、1980年代ころから、VA(バリュー・アナリシスvalue analysis=価値分析)、VE(バリュー・エンジニアリングvalue engineering=価値工学)など工学系の知識を応用しながら、原価企画の概念・手法を進化させている。これは、原価の絞込み活動を、できる限り企画・設計段階で達成しようとするものである。また、変動費と固定費のコスト分解を基盤とする損益分岐点分析や直接原価計算、貢献利益法などが、利益管理上の重要な技法として活用されている。この分析でも、LP(リニア・プログラミングlinear programming=線形計画法)のような経営数学の発展との接近が図られ、組合せ問題などに有効利用されている。長期的な意思決定問題では、キャッシュ・フローの現在価値割引を前提として、投資利益率法、正味現在価値法、回収期間法など設備投資の経済計算を中心にしている。管理会計の本格的な現代化を求めて、活動基準原価計算(ABC)およびその発展形態である活動基準管理(ABM)、さらには業績管理の総括的な方向を求めて、バランスト・スコアカード(BSC)のような企業経営全般を見渡す手法をも開発している。
[東海幹夫]
『櫻井通晴著『管理会計』第3版(2004・同文舘出版)』▽『東海幹夫著『会計プロフェッションのための原価計算・管理会計――企業の持続的な成長と発展を可能にする』(2007・清文社)』▽『岡本清・廣本敏郎・尾畑裕・挽文子著『管理会計』第2版(2008・中央経済社)』▽『加登豊著『管理計入門』(日経文庫)』
企業の管理実践において,トップ,ミドル,ロワーのラインの各階層の管理者が遂行する経営管理活動に対して,会計的方法を通じて貢献する計数的手段。機会原価分析,差額原価分析,資本予算,損益分岐点分析,予算管理(予算計画と予算統制),直接原価計算,標準原価計算,標準直接原価計算など,それぞれ成立の時期や背景を異にしながらも,経営管理活動のうち計画設定活動や統制活動に役立つことを企図して開発された各種の手段から構成される。それらは,過去の取引活動の実績を事後的に測定することよりも,むしろ将来事象の見積りや予測などの事前的測定にウェイトをおくことになる。また,財務会計が法令などの制度的ルールに準拠することを要請されるのに対して,それらは,制度的ルールの制約からは自由であり,各個別企業において,目的に対する手段の有効性が問われるのである。
企業の管理実践が管理会計に与える目的は各種多様である。たとえば,標準原価計算は,原価引下げ,予算作成,作業統制,ロスの原因分析,原価意識高揚などの目的にこたえることを期待されている。また予算管理は,利益計画,資金配分,達成目標の伝達,各種業務計画の調整,管理者の動機づけ,業績評価などの目的にこたえなければならない。しかし,管理会計は,所与の目的にどのようにでもこたえることのできる万能の手段ではない。管理会計の基本的な機能は,ほかならぬ会計的方法を通じて,各管理者による経営管理活動の進行過程を,企業全体の利益目標--あるいはそれと結びついた限界利益目標,売上げ目標,原価目標--に向けて計数的に操作することにある。管理会計の諸手段は,その適用領域を異にするとしても,全社的な利益管理の一環として,管理実践における各種多様な諸目的を企業全体の利益目標に結びつける固有な役割を果たすのである。
→財務会計
執筆者:津曲 直躬
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…研究対象となる企業の会計は主として営利企業すなわち株式会社やその集団などであるが,必要に応じて,学校法人,医療法人,団体等非営利企業の会計をも取り扱う。
[体系]
会計学はその領域を大きく会計学一般理論,財務会計論および管理会計論に三分することができる。(1)一般理論は広く財務会計論および管理会計論の双方の基礎をなす会計学の基本理論を意味している。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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