インダストリアルエンジニアリング(英語表記)industrial engineering

デジタル大辞泉 の解説

インダストリアル‐エンジニアリング(industrial engineering)

自然科学・社会科学の知識と方法を利用して、人間・資材・設備などの総合的なシステムの効率化を図るための工学的方法。生産工学経営工学管理工学などと訳される。IE。

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精選版 日本国語大辞典 の解説

インダストリアル‐エンジニアリング

  1. 〘 名詞 〙 ( [英語] industrial engineering ) 生産管理のための技術を用いて、生産性の向上を図る経営管理の技術。IE。生産工学。経営工学。

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改訂新版 世界大百科事典 の解説

インダストリアル・エンジニアリング
industrial engineering

IEと略称。人間の行う仕事の生産性を上げるための技術。〈人間の行う仕事〉には,家事,工場作業から事務作業,航空管制官の仕事なども含み,ときとして軍事的活動や研究開発活動も対象となる。〈仕事の生産性〉とは仕事に必要な人,もの,設備といった投入資源インプット)の量と,仕事から産出される製品やサービス(アウトプット)の量との比率のことである。より少ないインプットでより多くのアウトプットを生み出すことがIEの目標である。〈生産性を上げる技術〉とはインプットとなる資源を有効に使用する方法論である。この方法論は大きく二つに分けて考えられる。一つは生産性のよい仕事のしくみを設計する技術であり,機械設備の配置の仕方,作業の手順の決め方,道具の設計の仕方,設備の選択方法などを含む。もう一つは既存の仕事のしくみを使って,それを効率高く(高い生産性で)運用する技術であり,1単位のアウトプットを産出するために必要なインプット資源の量を示す尺度(たとえば標準作業量)の決め方,仕事の中に実際に有効に使用されている資源の量(たとえば機械の稼動率)の測定方法などを含む。したがってIEとは仕事のしくみの設計と運用において,無理,むら,むだを省く技術であると言い換えることができる。生産性の成果は一般に原価によって計られるが,スペース効率,機械稼動率,働く人の生きがい,エネルギー効率など(その場の資源上の制約)によっていろいろに計られる。

 産業革命以後,先進各国において産業が発達し,家内生産から工場生産への移行が起こった。この時代には,工業技術を経営(とくに工場管理)活動に適用しようとする試みが各地でなされた。中でも,産業の発展が急速であったアメリカにおいては,人手不足,多民族性,激しい企業競争という問題をかかえて,工業経営を効率的に進める必要性が強く認められていた。そのようなときに,F.W.テーラーが自分の勤務していた鉄鋼業に適用した経験をまとめた《工場管理Shop Management》という論文を1903年に発表した。その中で彼は,ストップウォッチを用いて作業を分析し標準時間を設定する方法,標準時間をもとにして能率給を支払う方法,監督者を機能別に配する方法,作業の指示を標準化されたカードを用いて具体的に行う方法などを提唱した。これらは実践を通して生まれた具体的な提案であったので,工業経営者に大きな影響を与えたと同時に,多大な効果をもたらした。彼はまた作業能率を高めるための実験を行い,科学的な方法を採用すれば,生産性をよくする方法が発見できることを示した。彼の基本的な考えをまとめた《科学的管理法の原理The Principles of Scientific Management》が11年に出版されIEの古典となっている。同じころ,ギルブレス夫妻Frank B.Gilbreth,Lillian M.Gilbrethが作業の能率を,作業者の疲労の軽減およびむだな動作の排除という観点から研究し,能率的な作業手順を設計する方法論を確立した。こうして,IEの基礎はテーラーの時間研究,ギルブレスの動作研究によって築かれた。それ以前は,仕事の能率は働く人の勘と経験と努力に依存するという観念があったが,彼らの活躍がそのような観念を次々と打ち破っていった。さらにその後,彼らの業績に刺激されて多くの研究者が現れ,設備レイアウトの方法,生産日程計画のたて方,経済的設備の選択方法などを開発し,数多くの技術的進歩が見られIEという技術分野が確立された。アメリカが世界一の経済大国になりえたのは,他国に先がけて生産性を向上させたことにある。そのために果たしたIEの役割は大きなものがあった。インダストリアルエンジニアリングという名称は1910年代にアメリカの企業で働く能率担当者をインダストリアル・エンジニアと呼んだことから生まれてきた。近年になってIEの応用分野が広がり,サービス的活動(たとえば病院,デパート,銀行)の分野にも適用されている。

 日本においては,31年にテーラーの論文が翻訳され,一部の工場においてIEの手法が適用されたが,当時は強いニーズに支えられることがなく発展しなかった。むしろ科学的な方法よりも精神論によって生産性向上の問題が扱われることすらあった。しかし第2次大戦後のアメリカ政府の援助によって,IEの専門家が派遣され普及が進み,IE学科をもつ大学も増加した。日本的経営風土に適したIEが発達し世界的に生産性の高い国に成長した一因となっている。日本ではIEを経営工学,産業工学,生産工学,管理工学と訳す場合があるが,一般にはIEという用語が用いられている。インダストリアル・エンジニアリングをIErと略すことがあるが,日本的略語である。

 アメリカIE協会では56年IEを以下のように定義している。〈IEは人,もの,設備からなるシステムを設計し,改善し,実施するための問題を扱う。そのために,IEは数学,自然科学,社会科学の知識と技能を,工学的分析・設計の原理・方法と合わせて用い,このシステムから得られる結果を明示し,予測し,評価する活動を行う〉。工場の作業の分析から始まったIEは,そのニーズに従って,方法論を発展させ適用分野も上記の定義に示すような範囲に広がっている。したがって,IEは狭義に解釈され,単に人間動作を中心に分析する技術として扱われる場合と,広義に解釈されて人,もの,設備で構成されるシステムの設計,改善,実施に関する技術として扱われる場合とがある。
科学的管理法 →作業研究
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日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

インダストリアル・エンジニアリング
いんだすとりあるえんじにありんぐ
industrial engineering

IEと略称し、経営工学、産業工学、生産工学などと訳されるが、訳はいずれも内容を適確に反映しているとはいいがたく、そのためIEがもっとも広く用いられる。IEの定義には種々のものがあり、IEの発展とともに変化してきているが、アメリカIE協会は、「IEは、人間、資材、設備、およびエネルギーの総合されたシステムの設計、改善、および実施に関する技術である。IEは、このようなシステムによって得られる結果を明示し、予測し、評価するために、工学的な分析や計画に関する方法とともに、数学、物理学、および社会科学における専門知識や技法を使用する」としている。また日本IE協会は、「IEは、人間、材料、および設備が一体となって機能を発揮するマネジメント・システムの設計、改良、設置をすることである。前記システムの成果を規定し、予測し、評価するために、数学、自然科学、人文科学中の特定の知識を利用するとともに、技術上の分析と総合についての原理と手法を併用する」としている。これらを通じた特徴を要約すれば、経営管理の問題解決へのエンジニアリング的(工学的)アプローチということになる。

 IEの内容は、(1)経営管理全般に関するもの、(2)生産(作業)に関するもの、(3)その他のもの、に大別することができよう。

 経営管理全般に関するIEとしては、長期経営計画策定のための各種経営予測、マピー法(MAPI)に代表される設備計画、新製品の研究・開発・評価、情報システムの設計と管理、事務のオートメーション化すなわちOA(office automation)、商品計画などがある。これらを通じてもっとも広く用いられる手法はオペレーションズ・リサーチ(OR)である。

 生産(作業)に関するIEは、IEの中心部分であり、狭義のIEである。その基礎は、作業測定と作業改善からなる作業研究である。作業測定の源流は、F・テーラーの科学的管理法における時間研究であるが、最近の作業測定は、時計のような器具を用いないで標準時間を測定するPTS法(既定時間法)としてワーク・ファクター法(WF法)、MTM法、DMT法(dimensional motion times)などの方法が広く用いられる。作業測定は作業実施前の計画段階で、動作と作業の関係を定量的に分析することを可能にする。作業改善はメソッド・エンジニアリングmethod engineering(方法技術)ともよばれ、ギルブレスの動作研究を源流とする。現在の作業改善は、メモ・モーションなどの高度撮影技術、VTRなどを用いる個々の動作や作業の改善と、それらの作業から構成される工程を全体として分析・改善する工程分析とに大別される。また作業改善は生産現場の作業についてのみでなく、事務作業についても実施される。IEは、これら作業測定と作業改善に基づいて、生産計画、工場配置、作業管理、賃金管理などへ展開され、またこれら主要な管理を円滑化するために、資材管理、在庫管理、設備管理、運搬管理、エネルギー管理(動力管理、熱管理など)、品質管理、外注管理など、実体面について工学的・技術的貢献をし、原価管理、原単位管理などの計数面についてもそれを補強する役割を果たす。

 その他のIEとしては、たとえばインダストリアル・デザインがある。これは、顧客の要求、設計能力、生産加工能力など、あらゆる条件を考慮に入れて、適切な製品内容を決定するための体系的方法である。

 IEの導入と実施は、経営管理の科学化に不可欠であるが、その推進主体はIE部門である。しかし、もっとも重要なことは、部門を設けるか否かではなく、IE技術者を育成すること、IE的な思考を浸透させることである。

[森本三男]

『甲斐章人著『IE基礎要論』(1996・税務経理協会)』

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百科事典マイペディア の解説

インダストリアル・エンジニアリング

仕事に従事する人間,もの,設備などの投入資源をより少なくし,産出される製品やサービスをより多くすることをめざす管理技術の体系。IEと略称。生産工学,経営工学と訳され,狭義には作業研究を土台とし生産工程の合理化を目的とする諸技術を意味し,これに在庫管理,品質管理など側面的効果をもつ諸管理の技術が組み合わされる。IEの源流は20世紀初頭の科学的管理法にまでさかのぼるが,今日では経営戦略にオペレーションズリサーチとか経営情報システム(MIS),あるいはIDP方式のような現代的手法が導入されIEの意味も広義化した。これにともなって,最高経営者のための技術体系,あるいは企業経営の総合的なシステム形成を目的とする技術体系としての性格が強くなった。
→関連項目経営工学システム工学動作研究

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 の解説

インダストリアル・エンジニアリング
industrial engineering; IE

人,資材および設備の総合的システムの設計,導入,改善を対象とする工学の一分野。そのシステムから生じる結果の規定,予測,評価のためには,数学,自然科学,社会科学の専門的知識,熟練ならびに工学的解析,工学的設計の原則と方法を使う。製造業での研究と応用に始るが,適用分野は製造業に限定されず,医療機関,政府機関,輸送業,農業,商業その他のきわめて広い範囲にわたる。独立した工学分野として発展したのは 20世紀に入ってからで,F.W.テーラーの作業研究,F.B.ギルブレス動作研究,ガントの工程研究の発展として,生産部門のライン部門のなかで,最適の生産達成を目的に展開されているが,近時は生産面の技術的,人間管理的複雑性が急増したため,生産を中心とする経営に科学的知識と工学的手法を総合的に適応し,合理化や意思決定の推進をはかるアプローチがとられている。

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世界大百科事典(旧版)内のインダストリアルエンジニアリングの言及

【科学的管理法】より

…広義には,各種の科学的理論に基づく経営管理の方策・技術・組織制度を総称し,経験・勘にたよる管理を成行き管理として対比的に用いる。中間的には,テーラー=ギルブレスの技法を発展拡大させた現在のIE(インダストリアル・エンジニアリング)の基礎技法部分を指すこともある。また,フランス人H.ファヨールの企業活動の分析,管理の要素分析を科学的管理法に含める考え方もある(たとえばP.ドラッカーなど)。…

※「インダストリアルエンジニアリング」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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